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2011年11月 7日 (月)

デジタルとアナログの狭間で

先日NHKから、“放送受信料「クレジットカード継続払」のお知らせ”なる文書が届いた。カード会社からの利用明細では年額と引落し日だけしかわからないので、それが何月から何月までの期間に対応するものなのかを確認したいと、家内が家計簿記帳のため問い合わせていたものに対する返信だったようだが、そのような文書発行サービスは来年の4月から取り止めになるという連絡文も、そこには併せ記載されていた。
理由は、業務改善の一環として、受信料を専ら番組充実に振り向けたい、紙の使用を減らして資源の有効活用に寄与したい...など、もっともなことではあったが、問題は、今後受信料明細を確認し、それを書類のかたちで保存したい人は、パソコンかケータイによるインターネットを通じて、NHKのウエブサイトにアクセスし、自分でプリントアウトするほか方法がなくなるという点。当然そのためには、あらかじめ、所定のサイトへの会員登録手続きをしておかなければならなくなる。

同様の、紙による連絡文書送付の廃止とそれに替えたウエブ閲覧への移行という企業側の都合による一方的な変更は、我が家の場合、実は1年ほど前からケータイ(au)の利用明細に関しても経験済みで、いまは否も応もなくそれに対応しているところ。なので、こんども、やれやれNHKもか、これも世の流れで仕方のないことなのかと、一たんはあきらめにも似た感懐を抱いたが、パソコンやケータイを持っていない人、あるいは持っていてもインターネットを使いこなせていない人などはどうするのだろうという疑念が残った。
そういう方々にくらべれば多少の心得はあるかも知れない自分にしても、決して、唯々諾々としてそのような通知を受け入れ、何の苦労もなくそういう変更にフォローできているわけではない。慣れるまでは利用ガイドと首っ引きで、試行錯誤を繰り返し、暗証番号を間違えてやり直したり、自分で決めたはずのIDやパスワードを忘れて何度も取り直したりしながら、やっと最近、何とかスムーズにログインして、求める情報に辿り着き、正しくプリントアウトできるようになったところだ。

いろいろな会員サイトやショッピングサイトなどで、さまざまな暗証番号・ID・パスワードを使っているので、最初のうちは、どれがどれのものだったかゴッチャになり、何度もログインに失敗して、パスワードなどはその都度、仮のものを発行してもらっては登録し直す始末で、けっこう神経を使い、手間もかかった。セキュリティのために必要だとは重々理解しつつも、未だに、こういうことは面倒なものだという感じは否めない。
この種の情報はケータイからもアクセスできることになっているわけだが、電話とメールとカメラと歩数計ぐらいの機能しか利用していない家内はもちろん、自分も、ケータイを使う気にはなれない――などと恰好をつけて言うよりも、ケータイは“使えない”と言った方が正直になる。ボタンが小さく押し辛いし、画面・文字が小さくて見えにくく、情報に辿り着くための操作もいろいろ複雑で、なかなか覚えられないのだ。世はスマホブームで、全ケータイの半分はスマホになっているというが、こちとらはガラケーでさえ、せっかくの多機能を生かし切っていない。

こんな状況をまさに裏付けるかのような調査報告をネット上で見かけた。いまやパソコンの世帯普及率は76%、ケータイのそれは95%を超えているのに、年齢層を60歳以上に限るとパソコンの普及率は52.7%に減り、しかもそれをインターネット接続に利用している人はわずか7%程度になってしまうというのだ。ケータイをインターネット接続のために使う人に至っては0.7%という統計誤差的な微々たる数字だそうで、信じられるものかどうかもわからないほどだが、要は、自分たちのような年代の人間は、情報をパソコンやケータイを通じてインターネットから得るということをあまりしないということなのだろう。
とすれば、auやNHKのような方針転換は、そういう人たちに対する一種の“情報差別”になるのではないだろうか?あえて問い合わせてはいないのでわからないが、何らかの代替策は講じられているのだろうか?利用料明細という情報そのものの価値・重要性の高低についての企業としての判断と、それにもとづく今回のような措置の適否の議論は一先ず擱くとして、これをキッカケに顧客に対する情報提供におけるデジタル化への傾斜に拍車がかかるとしたら問題だ。そういう企業は、将来世の中の情報はデジタル一色になり、アナログなかたちの情報は不要になるとでも信じているのだろうか?

自分が関わってきた、ビジネス・コミュニケーションの世界でも、企業から市場に向けて発信する情報がアナログからデジタルへと年々シフトして行く様子が、広告費統計などから如実に見てとれる。圧倒的だったマスメディアのシェアが目に見えて下がって行き、代わりにインターネットがハイペースで伸びている。マスメディアの中でも特に、新聞・雑誌という印刷メディアの凋落ぶりが目立ち、断然たるトップシェアを維持してきたテレビさえも、ジリ、ジリと、その数字が下がりつつある。
そんなところからか、“テレビはもはや死に体だ”とか、“いずれ広告はインターネットに席巻される”とかいったことを言い出すお先走りのジャーナリズムも出て来ているが、それはどうだろうか?確かにインターネットには、広告メディアとして、在来のメディアの次元を超えた機能的特性があり、それが利用シェアを急激に拡大させているのは事実だが、やがてそれによってすべてのビジネス・コミュニケーションが置き換えられるとか、アナログメディアにはまったく用がなくなるなどと考えるのは、当たっていないと思う。

インターネットは、これまでの諸アナログメディアのあり方に多大な影響を与えていることは間違いないし、それぞれが情報通信の世界においてかつて占めていたウエイトを大きく変えてしまうほどのインパクトを持っているものであることも否定できないが、それらをまったく駆逐してしまうような存在にはなるはずがないと自分は思っている。アナログメディアは、インターネッというデジタルメディアの出現によって、当座は何らかのマイナスを蒙っているかも知れないが、変容のための新しい生命を吹き込まれ、新たな機会を得ていることもまた、疑いを入れないところではないだろうか?
テレビが出現したときに映画産業がダメになってしまうと言われたが、結局いまどうなっているか?通販が急速に台頭したときいまにも店舗販売がなくなってしまうようなことが言われたが、その後実際にそのようなことが起こったか?話が飛躍するけれども、アメリカン・チェリーの輸入が自由化されたとき日本のサクランボ農家は壊滅してしまうと騒がれたが、いまどちらのサクランボがより売れているか?これらの例を引いて一概に論ずるのは乱暴かもしれないが、そういったかつての大騒ぎの顛末を考えてみると、いまの“インターネット一辺倒”、“デジタル万能” 論の先行きも見えてくるような気がする。

自分たちシニア世代の大部分は、ケータイやパソコンを自在に使いこなせず、結果的にデジタル情報への対応が不得意であるところから、それだけのことで“化石”とか“情弱”とかいった侮蔑的な陰口を叩かれることがあるようだが、おかしなことだ。そう言っている連中は、自分たちのような世代がすっかり交代するとすべての人がデジタル情報の端末機器を操るようになり、紙に印刷されたかたちで届けられるようなアナログな情報はまったくお呼びでなくなるとでも思っているらしいが、上記のような例を引用するまでもなく、長く受け入れられてきたものは、そんなに簡単にはその存在理由と価値を失わない。
浅学菲才にして感覚的にしか言えないが、いくら世代が代わろうとも、また情報技術が進んでも、人間が人間のままである限り、アナログ情報は必要であり続けると思う。人間の五感というものは本来、デジタルなかたちだけで発信される情報を受け入れ続けることに耐えるようにはできていないのではないかと思うからだ。人間は生理的に、意識的であれ無意識的であれ、デジタルな情報は一たんアナログな情報に変換してからでなければ、ある一定のキャパシティ以上は受け入れ切れないのではないだろうか?故スティーブ・ジョブスが生涯追求していたのも、そのことへの答えだったのではないかと思う。

アナログ情報とそれを運ぶさまざまなかたちのアナログメディアは、デジタル情報とデジタルメディアによってすべからく機械的に置き換えることができるような存在ではなく、存在すべき本来的な意味があって存在してきたし、これからも当然に存在し続けるものだと思う。ただし、デジタルと無関係にでも対立的にでもなく、相互に関わり合い、影響し合い、立ち位置と役割を変容させながら...。
ビジネスコミュニケーション・メディアについても、同様のことが言えるだろう。これから見えてくるのは、新デジタルメディアと旧アナログメディアの交代という図式ではなくて、新旧相関の結果としての相互補完的共存ということになるのではないか。そして、そう考えず単純に情報の完全デジタル化という未来を想定して突っ走る業界や企業は、市場や顧客の中に根源的に存在しているものが見えぬまま偏ったビジネス成果に向かって進み、気がついたときには大きなものを失っているということになるのではないかと懸念する。

...と、デジタルとアナログの狭間を行きつ戻りつし、auやNHKのサービス方針変更通知からそんなことを考えてしまった自分は、時代とズレているのだろうか?

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