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2011年6月 5日 (日)

今年の広告賞選考会で感じたこと

先週末で、いまの自分にはけっこうハードだった1週間が終わり、正直、一息ついているところ。毎年5月の最終週には、月曜から金曜までにわたり定例の広告電通賞の各部門最終選考会と総会が行われ、自分の出番はそのうち3日だけなのだが、事前に資料を読み込んだり、選考会当日は限られた時間の中で神経を集中して応募企画・作品の審査をするので、その最中はそうも思わないけれども、後になってジワーッと疲労感が出てくるのだ。
と言ってもこの仕事は、直接現場に関わることがほとんどなくなった自分にとって、広告のいまをまとめて垣間見る絶好の機会。審査対象の企画・作品に触れることはもちろん、久し振りに顔を合わす業界の人たちや大学の先生たちとの会話に快い知的刺激を覚えるし、他愛もないことだが、出掛けるに際して普段のユルいウェアからタイ&ジャケットにビシッと身を固めると、背筋がシャンとして元気が湧き出てくるような気がする。

週末に帝国ホテルで行われた総会の広い会場には、自分が直接担当したSP(セールスプロモーション)およびダイレクトの2部門を含む新聞・雑誌・ポスター・ラジオ・テレビ・インターネットなど全部門の、100点近くの入賞企画・作品のプレゼンテーションボードが、壁面一杯に展示されていて、開会までの暫時の待ち時間にそれらを一わたり見させてもらったが、選考を通じて今回も変わらず感じさせられたことがあったという思いの半面、こうやって見ても、いま一つ知りたいことがわからないという思いも残った。
総会での、審議会および主催者代表の挨拶は、当然、去る3月11日の大震災とその後の電力事情悪化によるこの業界への多大な影響に触れていたが、この賞の応募締切りが同月の末日だったため、ほとんどすべての企画・作品の出品はそれ以前になされていたようで、その内容自体には影響が及んでいないように見受けられた。昨年の景気は、2年続いた低迷からようやく脱して、ゆるやかな回復基調に乗っていたところだったとかで、応募のあった企画・作品にもその状況は反映されていることが見てとれた。

前置きが長くなったが、“今年の広告賞選考会で感じたこと”は大小いくつかある。まずは応募点数の問題。全部門区分を通じての総点数の増減はともかく、自分が関わっている「SP広告」部門と「ダイレクト広告」部門の中のサブ区分(SPは「インストアプロモーション」と「プロモーショナルキャンペーン」、ダイレクトの方は「通販プログラム」と「非通販プログラム」)ごとに見ると、両部門とも、えらくバランスが欠けていた感じがした。
具体的に言うと、SPではその原型ともいうべきインストアプロモーションが少なくて、さまざまな要素が複合したプロモーショナルキャンペーンが圧倒的に多く、ダイレクトでは逆に、原型である通販プログラムの方が多くて、伝統的な店舗販売モデルにその原理とシステムを導入・適用した非通販プログラムが極端に少なかった。ダイレクト広告部門はそのせいもあってか、全体の応募点数も昨年よりかなり減っていた。

SP部門でなぜそういう傾向になったのかを考えると、それは、SP(広告全般にそうだが)が追求しなければならない目的と達成しなければならない成果の幅が、かつてよりも格段に拡がり、またハードルも高くなっているからに他ならないという結論に行き着きそうだ。SPはもはや、期間や場所を限って効果を刺激・促進しようとする戦術ではなくて、長期・広汎囲にわたって成果を積み上げ支えるための“戦略”として考えなければならないところに来ているのではないだろうか。
実際、SP部門に応募があった企画・作品の中で、文字通り“販売促進”という従来的な結果だけを求めそのことだけを評価しようとしているものは、全体の約半数で、残りの半数はむしろ、関心度・認知度・好感度アップといったことを目的とし、成果も、PR・パブリシティ効果を上げたことを以って良しとしている。このことから、今日のSPは、伝統的なSPが追求してきた目的・成果を“核”としながらも、その役割の幅を、伝統的に“純広告”と言われてきたものの領域にまで拡げ、“マクロな意味での広告”とでも謂うべき存在に進化したと言ってもいいかも知れない。

広告あるいはSPがそういう総合的なものなると、その目的達成のためのチャネルとしてのメディアも、複合的なかたちで利用されるのが必然的になるから、SP広告のほとんどすべて、ダイレクト広告の大半が、いわゆる“クロスメディア”になるのも当然のことと言え、そうなると、広告の評価をメディアごとにしているだけでは全体が見えなくなるのではないかという懸念を、自分などは抱いてしまう。この広告電通賞についても、既存の各メディアと並んで、クロスメディア(自分は“マルチメディア”と言う方が適切と思う)という部門があってもいいのではないかと夢想したりしているのだが、どんなものだろう。
ただ、クロスメディアと言っても、“伝統的な意味での広告”について盛んに唱えられてきたメディアミックスやメディアインテグレーションと同様に考えていては、認識不足の誹りを免れないだろう。それは、単に複数のメディアを重層的に使うだけのことではなくて、それぞれのメディアの持ち場・役割が適切に設定され有機的に組み合わされて、それらが追求目的に向かって緻密に相関しながら集約されるかたちになっていなければならず、事実、成功したSP・ダイレクト広告の企画は、そのように設計されていた。

ここで、インターネットのことを、少々突っ込んで話しておきたい。「インターネット広告」のために投下される費用は年々急速に増え続け、いまやテレビ広告のそれに次ぐ位置にランクされているのは各位がご承知の通りだが、このメディアが、伝統的な意味での“広告”という概念の延長線上で、単にそのような目的追求のためだけのものとして理解され利用されているのは、今日のマーケティング戦略プランニングの上であまりにも役不足ということになる。
改めて言うまでもないが、インターネットはコミュニケーションメディアであるだけでなくトランザクションチャネルでもあり、インプレッション機能だけでなく、トラフィックとインタラクションの機能をもフルに活かして、マーケティングの開始・先導のみならず、推進・拡大・維持・完結と、その全プロセスにわたって活用されなければならず、その意味で、クロスメディア構築における“情報の出入り口”として、“受発信の基盤・中心軸”として、さらには“効果の増幅・波及装置”として、不可欠な役割を担う。

今回のSP広告部門への応募企画・作品からは、そのことが、理屈はともあれ実態として見てとることができたように思う。告知メディアの1つとしてインターネット広告を挙げていたものは全体の半分ちょっとに過ぎなかったが、その記載がなかったものにも、告知サイト、コンテンツサイト、コンテストサイト、コミュニティサイト、ネットワーキングサイトなど、すべてに、何らかのかたちでインターネットが活用されていた。トゥイッター・動画・ブログなどのいわゆるソーシャルメディアの利用も、昨年とくらべて格段に積極的になり、その使い方も戦略・戦術的に進化して、大いに効果が上がっていた。
ダイレクト広告部門におけるインターネットの役割については、このメディアの諸機能とダイレクト広告の相性から言って、さらに明快かつ当を得た活用企画の応募があるだろうと期待していたのだが、その通販プログラムの区分には、単なる販売チャネルミックスとして以上の利用例は見られなかったし、非通販プログラムということでの応募企画に至っては、1件を除いて、インターネットの活用以前にダイレクト広告として規定されている概念の理解を疑うようなものばかりで、非常に落胆させられた。

“いま一つわからない”と言ったのはそのあたりのことで、今日のマーケティングは、市場ターゲティング・顧客関係強化・ROI重視...など、ダイレクトマーケティングの本質に限りなく迫りつつあり、そのためインターネットが縦横に重用されているはずなのに、なぜそれが表面化して来ないのだろうかという疑問が浮かぶのだ。
大多数の企業は、そういう世界的潮流を理解・認識しようとしていないのか?それとも、認識はしていても方法論的にまだ勉強不足状態なのか、あるいは、実際にはそのような動きがあっても、それが各メディア別の広告として拡散されて、1つの大きな流れとして確認されないだけなのか?...その辺を見極めたくて、総会会場に掲げられたインターネット広告入賞企画・作品のボードを観察したのだが、とうとうわからなかった。

できたら、自分のような特定部門だけの選考委員には見えない、全部門の応募企画・作品を相関させた視点からの解説を、誰かにしてもらえると有難いのだが...。

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