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2010年9月 6日 (月)

潮の香り

月が改まり九月に入った。九月と言えば歳時記的にはもう秋、本来なら暑さも峠を越して残暑ということになっているはずだが、そんな様子はとても見えず、7月中旬から続く猛暑は一向に収まる気配が見えない。が、そんなハードなコンディションの中でも自分は、ご老体(?)ながら何とか熱中症にもならず、夏バテというほどのこともなく、まずまず息災に毎日を過ごせているから有難い。
しかし、これからの2~3ヵ月は、11月下旬の手術を控えて事前のプランニングおよび全身状態チェックのための各種検査があり、別口(昨年の胃の手術)の1年後検診などもあるので、あまり無理なことはできないと思い、炎天下に繁華街へ出かけるようなことは極力控えていたが、先日はよんどころない用事があって、久々に、港のそばまで行ってきた。

ハマ生まれのハマ育ちでいまもそこで暮らしている生粋のハマっ子の友人や、卒業後この街に根を下ろし事務所を開いて以来ずっとそこから動かない弁護士の友人などもいるので、ツイこの間まで、関内や横浜駅周辺にはときどき出没していたし、たまには“みなとみらい”のホテルで家内とディナーなどをすることもあったから、まるっきり市の中心部にご無沙汰していたわけではなかったが、そこから先の海の見えるところまでは、考えてみるとずいぶん長い間、足を延ばしていなかった。
実は用事というのはパスポートの申請で、神奈川県のパスポートセンターが置かれている「産業貿易センター」へ足を運んだのだが、これが12年振り。お向かいの「山下公園」に至ってはその倍以上もの年月の間訪れていなかった。そう言えば、子供たちに「氷川丸」を見学させたり「大桟橋」に接岸した豪華客船を見に連れて行ったのは、まだ彼らが小さく自分も若かったころ...いつの間にかあれから四半世紀余りが過ぎてしまった。

パスポートの有効期間は最長10年なのに前回以来12年とは?...と、お気付きの方もいると思うが、これには訳がある。期限が切れたのが2008年の秋だったが、ちょうどそのときは家の建て替えの真っ最中で、清里で暮らしており、仕事と工事進行の確認の他にはとても、何度にもわたって横浜まで出かけるほどの心身の余裕がなく、また差し迫った渡航予定があったわけでもなかったので、実際に必要が生じたときに新たに申請すればいいと、失効するにまかせていたのだ。
そして、横浜に戻ったらできるだけ早く再申請して、遅くとも翌年の秋ごろにはどこかへ出かける積りでいたのだが、これも、予期せぬ出来事で延期せざるを得なくなってしまった。すでに何度も書いているように、昨年は春先に検診で消化器系の疾患を指摘され、秋口まで精密検査に続く入院・手術の日を送り、退院後も体力低下のため海外旅行どころではなくなり、したがってパスポートの手続きも先延ばしということになっていた。

そこで今年こそはということで、寒さも少し和らいできた3月に東京の文京区役所まで出かけ早々と戸籍抄本を入手(郵便でも可ということは知っていたが、ついでに昔住んでいた辺りも見て来たかったので)、一拍おいてパスポートの申請にも行こうと思っていたら、チョッとした体調不良のため内科医院で血液検査をしてもらったのがキッカケで異常が発見され、またまた病院通いと検診漬けになり、とうとうここまで来てしまった。
パスポートの申請に有効な戸籍抄本は発行より6ヵ月以内のものとされているので、これを無駄にしないためにはどうしても9月の初旬には手続きを済まさなければならない勘定になり、少しは涼しくなりそうな日を待っていたが、どうやらその望みは無理のようだし、自分の持ち時間も後がなくなったので、ギリギリのところで思い切って出かけた次第。

ご存知の方も多いと思うけれども、山下町の産貿センターへのアクセスは、市営地下鉄ブルーラインを横浜または桜木町で「みなとみらい線」に乗り換え「日本大通り」駅で降り海方向へ5分ほど歩くか、横浜駅東口のバスターミナルから市営バスに乗って「大桟橋」バス停で降車するか、の2通りがあるが、バスは駅に直結したS百貨店の1階からスタートする上に、道向かいだがセンターの真ん前にストップするので、なるべく直射日光の下を歩かずに済ませたいと思っていた自分としては、迷わずこちらを選んだ。
何れにしても、いまはこのように便利になったが、かつてはそこまで行くのには、関内でJRか地下鉄を降り、横浜球場のある公園を横切って結構な距離を15分ほど歩いたものだった。もちろんそのころもバス便はあったはずだが、まだ現役でなかなか時間がとれず、スケジュールの合間を縫って来なければならなかった身には、何となくバスという乗物がまどろっこしくて、利用する気にならなかった。

それに引き替えいまは、時間はほとんどどうにでも融通をつけられる立場。速さと正確さと大量輸送を追求する電車や地下鉄のような効率本位の乗物は味気ないと感ずるようになり、むしろ、街の中をアッチに曲がりコッチに曲がりしながらユルユルと移動し、乗り合わせる人々の様子や沿線の景色の変化なども観察して楽しめるバスのようなスローな乗物の方が好ましくなってしまったので、そういう選択をしたわけだ。
いわゆる“海岸通り”を走る路線バスに、始発停留所から乗車したので、後部の二人掛け席に一人でゆったりと座り、無心に車窓に目をやっていたが、久し振りだったせいか、見慣れたはずの“郵船ビル”や“市合同庁舎(旧生糸検査所)”や“税関ビル”といったレトロな洋風建築と濃い緑のイチョウ並木がヤケにエキゾチックに感じられて、一瞬、どこか異国の知らない町を旅しているような不思議な錯覚に陥った。

横浜の港の風景 ところでパスポートの手続きだが、かつてと比べるとずいぶん早くなったような気がした。戸籍抄本だけ用意して行って、写真は現場のスタジオで撮り、申請用紙に記入するのに7~10分くらい費やし、受付窓口で2~3人の3~5分待ち、書類確認窓口では7~8人の10~15分待ちしたくらいで、合計30分足らずで済んでしまった。窓口スタッフがだいぶ増えていたような気もしたし、いまは海外渡航者の数も頭打ちになって相対的に時間がかからなくなったのかも知れないが、ともあれ拍子抜けするほどだった。
新しいパスポートは1週間後には手に入るわけだが、実は今回、戸籍抄本を無駄にしないために急遽やってきただけで、さしあたってどこかに出かける予定が決まっていたわけではない。とは言っても、前回(ニューヨークへ)出かけてからもう3年が過ぎ、とうに我慢の限界は超えており、本音はすぐにでもどこかへ飛んで行きたいところ。けれども、少なくともあと半年くらいは自重しなければならないのは、前述した通りだ。

さて、予定よりも早く用が済んだので、折角ここまで来たのだから海風にでも当たって行くかという気になって、産貿センターの前の道を渡り山下公園へ行ってみた。これまでにこの岸壁から何度横浜の港を眺め渡したか覚えていないが、思えば、最後にここを訪れてから、自分で意識していた以上の歳月が経っており、公園そのものと右手の埠頭に係留された「氷川丸」は昔のままだったが、その他の景観は大きく変化していた。
海に向かって右手奥には、かつてはその場所に見えることのなかった「ベイブリッジ」が、強い夏の陽を浴びて白銀色に映え、大きく左手に首を廻らすとそこには、やはりかつては存在していなかった“みなとみらい”のビル群が林立し、その手前には「大桟橋」が、すっかりきれいに変身して横たわっていた。沖にはハシケが浮かび、その上に真っ青な夏空が大きく広がり、ハマの港はそのまま遠く外国まで続いているようにも思え、たまたまパスポートを申請に来た日の眺めとしてまことに相応しい印象だった。

自分はもし、海・山どちらか好きかと問われれば、とりあえず“山”と答えるだろうだが、こういう美しい港の雰囲気ももちろん大好きだ。たまに来て思い入れが加わるから余計そう感ずるのかもしれないが...。
さあて、今度ここに来るのはいつになるのだろう。パスポートの更新のときか...でも次のパスポートは果たして必要になるのか...それまでここからの眺めは変わらないままでいるのだろうか...。

帰りしな、足元にヒタヒタと打ち寄せる小波が、かすかな潮の香りを運んできた。

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コメント

この暑さでは、体調も崩れがちになりますよね
涼しくなるまで、流石にあと少し・・・(のはず?)
どうぞ、ご自愛ください。

投稿: Betty | 2010年9月 7日 (火) 18時55分

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