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2010年5月31日 (月)

広告電通賞の季節

齢のせいですっかり出無精になったと言うつもりはないが、ときに億劫感を覚えることがあって、年々少しずつ、仕事で外出する機会が減っている。でもそんな中、4月中旬から5月一杯にかけては、例年の広告電通賞選考の季節で、「セールスプロモーション(以下SP)広告」と「ダイレクト広告」の2部門の選考委員になっている自分は、ほどほどに忙しくなり、お蔭で心身共に元気を取り戻す。
“風薫る五月”と言えば月並みだが、不思議とこの季節になると、それまでの不順な気候が落ち着き、コートなしで出かけても暑くもなければ寒くもなし、大都会の街中でも大気が快い。この時季、選考会場の電通ビルに入ると、広いロビーには、この会社の社員らしき人たち、訪ねて来た関係者らしき人たち、そして就職活動の真っ最中らしき若者たちなどが縦横に行き交っていて、一種独特のエネルギーが発散されているが、自分も久し振りにそんな空気に触れて刺激を受け、気持ちが“仕事モード”に切り替わった。

この選考会はSPもダイレクトも、かつては、それぞれ数十点に及ぶ応募作品の企画概要とプレゼンテーション・ボードを、当日選考会場に入って初めて目にすることになっていたので、それを各1~2日、それぞれ2~3時間という短い間にチェックして評価するというのは、傍目よりもはるかに集中力を要する、正直言って決して楽ではない仕事だったが、昨年から事前に応募の“企画概要”に目を通すことができるようになり、ジックリと考察することが可能になった。
歴史的にこの賞は、さまざまなメディアでの広告の優れたクリエーティブに対して与えられてきたものだそうだが、自分は、広告はアートやエンタテインメントでもあるかも知れないけれども同時に投下費用に見合う効果が上がっていなければ話にならない(特にSP・ダイレクトは)という考えを持ち、話題になったり魅力的だったりするだけでなく成果に寄与(それこそ人の心を動かしたということになる)してこそ優れたクリエーティブと思っているので、企画概要はきわめて重要な資料となり、いつも、そこに記されている全体戦略の組み立てとそれによる成果にかなりウエイトを置いて評価させてもらっている。

さて、SP広告とダイレクト広告は今年から、その部門内の区分がザックリと、前者は「インストア・プロモーション」と「プロモーショナル・キャンペーン」、そして後者は「通販」と「非通販」という2分類に変った。従来、SPは購買喚起型/話題喚起型/複合型と、プロモーション目的別に3分類され、ダイレクトはグラフィック/ダイレクト・ツール/テレビ・ラジオ/クロスメディアと、メディア・タイプ別に4分類されていたのだが、どうやらそういう分類では、企画・作品の実態に整合しなくなったということのようだ。
趣旨はわかるし、事務局の苦心のほども察するが、今回の区分し方はもしかしたら、思わぬ混乱を招いたかも知れない。SPでは、“インストア...”がずいぶん範囲を限定した印象を与えるのに対し、“プロモーショナル...”の方は逆に幅が拡がり過ぎてSPの既成概念とはいささか異なるのではないかと思われる作品が少なからず含まれる結果になり、ダイレクトの方も、“通販”という明確な概念に対し、“非通販”という括りはあまりに大雑把過ぎ応募者によって概念の解釈がマチマチになり、ダイレクトの既成概念とは異質の作品をかなり含むことになった。結果、応募点数も、これらの部門に大きく偏った。

このことはしかし、見方を変えると、とりあえず“広告”という呼称で一括りにされている今日のマーケティング・コミュニケーション全体の中には、「○○広告」「△△広告」といった概念で明快に区別できるものはどんどん少なくなり、達成しようとする“目的”も使用する“メディア”も限りなく多彩化・多重化して従来の概念ワクには収まりきれなくなったものが増殖してきて、それらがこの広告賞では、SP広告・ダイレクト広告という存外奥の深い2部門に吹き寄せられたという感がしなくもない。
SPもダイレクトも、それがある特定の目的・形態を意味していた時代から伝統的に効果が証明されている定石戦略・手法というものがあるから、今回も当然ほとんどの応募作品は、キャンペーンの性格や規模の大小にかかわらず意識的・無意識的にそれを踏まえていたが、ほぼ単一のメディア・戦略・手法でコストもあまりかけずに立派な成果を挙げていた職人芸のようなケースも多少はあったものの、年々増えてきたいわゆる「クロスメディア」が、事実上ほとんどを占めていた。

クロスメディアは、今日の広告が設定すべき目的の“多岐化”と達成すべき成果レベルの“高度化”に伴う必然的なメディア複合戦略で、言うまでもなく、単なるメディアの量的な多重作戦ではなくて、質的な連携利用作戦だが、複数のメディアを利用するという意味では、単一メディアだけの場合よりも広告投資額が嵩むことは事実として否定できない。しかし、それを単なる物量作戦と見ていては判断を誤ることになるだろう。
もちろん、いたずらにさまざまなメディアに大量の広告投資をし、力づくだけで結果を出そうとするのは感心しないが、費用を節約したところで結果が出なければ何もならない。要は、投資をしてもそれに十分見合う効果が上がれば良いわけで、その投資効率(ROI)の改善を常に目指して、メディアの組み合わせと活用手法を追求して行くのが、真のクロスメディアではないのだろうか?ダイレクト広告とSP広告には、それを検証する手法がある。

クロスメディアと言っても戦略は一様ではないが、中心になるのは、これからはやはりインターネットだと思う。この賞には5年前から「インターネット広告」という部門が設けられているが、インターネットを単に、旧来のマスメディアなどと並べて“広く告げる”ためのメディアの一つとして見ているだけでは、近視眼的思考に陥って大きな将来展望を欠くことになる。
インターネットは今や、本来の広告という概念には収まり切れないマーケティング・コミュニケーションにおける“情報の出入口”として、“受発信の基盤・中心軸”として、さらには“効果の増幅・波及装置”として不可欠なものになりつつあり、それがこの賞のSPやダイレクトという部門において、単に「広告」だけでなく「キャンペーン・サイト」「SNS」「動画」などとして、またそれに「モバイル・ディバイス」も組み込まれたかたちで、盛んに実験されている様子が見える。その動きは今年になって、昨年より格段に高まった。

先日のブログにも書いたが、広告費統計では年々インターネットが伸びマスメディアが落ち込んでいるので、広告におけるマスとネットは利害が相反するように見えるが、そんなことはない。インターネットは、マスメディアの存在なしではその価値と持ち味を十分に発揮できないし、マスメディアもそれだけでは、時代が要求するマーケティング目的を達成できない。両者は“互恵・相互補完”の関係にあり、いかにしてそれを効果的に引き出すかが、今後の“広い意味での広告ビジネス”の発展の鍵になる。そしてそれによって、いまはクロスメディアと呼び、SP・ダイレクト広告と呼んで区別しているものが、混然として“新しい何か”に進化することになるのだろう。
かつて、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのマスメディアによる広告を“Above the Line”と呼び、SPやダイレクトメールなどそれ以外のマーケティング・コミュニケーションを“Below the Line”と呼んで、文字通りその間に一線を引いていた時代があったが、現在はもはや実態として、そんな線引きは意味がなくなり、aboveとbelowを合わせた“thru the line”という呼称も使われるようになった。自分は、クロスメディアという概念に合わせた“across the line”などという呼び方もあるのではないかと思っているが...。 ともあれ、この広告賞も視点を新たにして、そういう時代の流れに対応して行かなければなるまい。

日本を含めて世界の景気は、ようやく今年初あたりから少しずつ回復基調にあるようで、広告業界もそれに伴いここ数ヵ月、漸次改善の兆しが見え始めているとか...。 今回の応募作品は2009年度、つまり09年4月1日から10年3月31日までのものだったから、景気後退の影響を受けてか、全体的にチャレンジングというよりは手堅く成果に結びつけようというものが多かった印象を受けたが、そんな中でも、懸命にアイディアを凝らして、時代環境に副った意欲的な試みが少なからず見られたのは心強い限りだった。
“鶏と卵”の関係かも知れないが、広告の活気と、世の中の元気は連動する。来年度の賞選考の機会には、ぜひ、表現・成果ともに元気が出るような作品に出会いたいものだ。

心地よい知的刺激を受けて、ふやけていた脳内が活性化したような気がした一月半だった。

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