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2010年2月 8日 (月)

ムッシュと甘い蜜の香り

100206_2 立春が過ぎても寒い日が続いていたが、今週からは少し暖かくなるらしいので、自分のような寒がりにとっては有難い。しかし、つい先日は雪まで降ったし、これでスンナリ本当の春に移行というわけには、なかなか行かないだろう。それでも、御嶽神社境内の早咲きの梅は律儀なもので、今年も例年と同じ時期に白い花をつけ始めている。
花と言えば...ムッシュが珍(大!?)事件を引き起こし、ここ何日か家内はお冠だった。あろうことか、彼女が長い月日をかけて大事に育ててきてやっと付いた洋蘭の花芽を、アッという間に食べ尽くしてしまったのだ。あまりのことに、いつもは優しいママがキレてしまって、本人(犬)もさすがにうろたえていたが、覆水盆に返らず。

つい先日の夕方のこと。2階の自室で仕事をしていたら、1階から“お父さん、チョッと来てー”という家内の悲鳴が聞えた。何ごとかと、階段を走り下りて駆けつけると、リビングルームの窓際に置いてあったシンピジウムの大鉢の前で、彼女が茫然と、そして半ベソをかいて立ち尽くしていた。
その様子だけでは事情がよく呑み込めなかったので、一体どうしたのかと尋ねると、ムッシュが、もうすぐ開花しようかというところだったシンピジウムの花芽を、全部、茎ごと、根元から食べてしまったとのこと。確かに、その残骸らしき尖った葉先や堅そうな芯の部分が、鉢の近辺に散らばっていた。家内がキッチン仕事をしていて目が届かなかった、わずか30分ほどの間の出来事だったようだ。

ちょうど1年前に、家内が親しくしている行きつけの美容院の美容師さんから新築祝いにと頂戴した鉢で、そのとき見事に咲いていた花がすっかり散り落ちた後、1年近く丹精してやっと再びここまで漕ぎつけたのに...と、彼女は嘆くことしきり。
花芽は18個、すべて1本の茎についていたもので、それがなくなったとなると当分(数ヵ月~1年)は見込みがないらしく、これまでの努力が水の泡になったと、家内の落胆と怒りは半端ではなかった。自分もその気持ちは十分理解できたが、そんなものをそんなに大量に食べてしまったムッシュのお腹も大丈夫だろうかと、一方ではそれも心配だった。

園芸に疎い自分などにはよくわからなかったが、どうやらこのシンピジウムの花芽からは、甘い蜜が滴るほどに滲み出て芳香を放っていたらしく、それがムッシュの嗅覚をいたく刺激し、このとんでもない行動に駆り立ててしまったようだった。
そう言えば、庭で遊んでいるときにハーブ類の枯れ葉を夢中で食べようとしていたし、日向ボッコのときにはテラスに出していた鉢植えのシャコバサボテンの花に齧りついていたこともあったから、こちらも予め気をつけなければいけなかったのかも知れないが、まさか、あんな硬いものを、それもあんなに沢山平らげてしまうとは、夢にも思わなかった。

本人(犬)にしてみれば、どこにある植物なら食べてもよくて、どこにあるのがいけないのか、どれがママの大事にしているもので、どれがそうでもないのか、などというビミョーなことは分かるわけがないし、たとえ事前に言って聞かせていたとしてもピンと来なかっただろう。が、とにかくママが本気で怒っているので、結果的に自分がエライことをしでかしてしまったとは気がついたようだ。
ふだん小さなオイタをしたときなら、コソコソとソファーの下に隠れ、ほとぼりの冷めたころにノコノコと出て来て、ママやパパに苦笑混じりで叱られるくらいで済んだのだが、今回ばかりはそうは行かなさそうだと悟ったか、大声で一喝されたら、現場で固まってしまった。目は虚ろ、耳と尻尾は垂れ、いつもの愛くるしい表情はどこへやら、ただでも小さな体をいっそう縮めている姿は、哀れでさえあった。

しかし、何がどれだけいけない事だったのか、今後のためにも分からせておく必要があると思い、家内はもちろん自分からも、齧り残した花茎の根株と葉先を指差しながら、強い口調で繰り返し言って聞かせた。
晩ご飯の直前だったが、異常なほど大量に葉茎や花芽を食べてしまったこともあるし、罰の意味も含めて当然その一食は抜き。大好物の食後のガムもあげなかった。こちらとしても可哀そうな気がして辛かったが、早々にケージに退去させて消灯し寝かしつけた。いつもならそれからも、少し甘え啼きするのだが、その夜のムッシュは一声も発しなかった。

その日の家内はどれだけ怒っても足りなかったようだが、実のところ自分は、チョッと厳しくし過ぎたかなと気になって、ベッドに入ってからもなかなか寝付けなかった。4歳で我が家に来たムッシュは、もういい大人なのにあんなに頭ごなしに叱られて、傷心のあまり自分たちに対する気持ちが冷めてしまったのでは...などと、あらぬことまで考えた。
が、いつの間にか眠りに落ちてしまい、翌朝は定刻に目が覚めた。いつもの朝なら、自分たちが1階に下りて行くころにはムッシュの啼き声が聞えるのだが、その朝は何も...。もしや打ちひしがれてグッタリとしているのではと、恐る恐るケージを覗き込んだら、いつものように元気にピョンピョン飛び跳ねているので、やれやれ思い過ごしだったと一安心。

だが、あれだけのものを食べた後だからか...ケージ内は近来になく惨憺たる有様だった。上から下から放出されたもの(失礼!)が、トイレ内だけでは済まず、まわりのマットや毛布にも散乱してイヤハヤという状態。
だから言わんこっちゃぁない...あんなものを食べるからだョ!と、怒ってみても仕方がないとは思いつつもブツブツ。それはともかくとして、この種の片付け清掃は自分の役割なので、久し振りに朝から大仕事をした。で、すっかり神経が疲れて、自分はもはや叱る気も失せていたが、ムッシュはママから、また改めて懇々とお小言を頂戴していた。

いつもなら、起きぬけにママのところへ素っ飛んで行くと“ムーちゃんオハヨー”と頭を撫でてもらえるのだが、その朝はこんな失敗の上塗りもあって、ママはまだまだ立腹中。教育のためには両親とも一貫した姿勢でなければないから、こちらも散歩中はムッツリ。途中でムッシュに声をかけてくださったご近所の方々にも、ぎごちない笑顔をつくり無言で頭を下げただけ。もしかしたら、今日はずいぶん愛想が悪いと思われたかも知れない。
翌々日にはお兄ちゃん達が揃ってやってきたので、ムッシュは何とか縋りついて遊んでもらおうとしていたが、話を聞いて親の教育的姿勢に協力したお兄ちゃん達にも、“それじゃあしょうがないなー”と素っ気なくされていた。

それはそうと、昨年の9月21日(今年の夏は...)に書いたが、あのとき以来ムッシュは、ペットクリニックの先生にダイエットを命じられ、2.5キロの標準体重まで減量するのを目標に、食事の量をコントロールしていた。しかし、その甲斐があり過ぎたか、最近はだいぶウエストが細く、お尻も小さくなってきたように見え、いささか気になっていた。
クリニックには、体重チェックのためときどき寄るように言われていたのに、快食・快眠・快便ですこぶる元気だったのでツイご無沙汰していたが、痩せれば痩せたで心配なものだし、今回あんなものを食べてしまったこともあったから、ともあれ久し振りの体重チェックがてら、先生の意見を聞こうと足を運んだ。

測ってみたら体重は、何と2.4キロまで減って、すでに目標値を下回っていた。でも、元気なら心配はいらない、体重減は食事量の減らし過ぎでしょうというのが結論。半年前には食べさせ過ぎと言われて、指定された食事量を厳守していたのだが...難しいものだ。
道理で、ママやパパが食事をしているときに、必死になっておねだりすると思った。庭でハーブの枯れ葉を食べたりシャコバサボテンの花をパクリとやっていたのも、空腹のせいだったか。

それにしても、シンピジウムの花芽18個はマズかったョ。いやウマかったのか...!? 
結局、今後は週に2回くらいずつ体重チェックをしながら、以前太らせてしまったときほどではなく食事を増量してみましょうということに。何だか、納得のような、でもチョッピリ腑に落ちないような気持ち...。

ところでムッシュの方は、すっかり改心して花芽を狙うのをあきらめたかというと、どうもそうでもないらしい。例のシンピジウムの鉢は、彼が届きにくい高さのテーブルに移したが、花芽はなくなってもまだ甘い蜜の香りがするのか、ときどき傍へ行っては上を見上げている。
シャコバサボテンの鉢も室内に取り込んだが、低いティーテーブルの上に置いたら、いつの間にかまた、花がなくなっていた。付近に散り落ちてもいないから、さては...と思ったけれども、ご当人(犬)は知らん顔。

まだ、そんなに空腹なのかしらん...でもまあいい、お腹をこわしたりさえしなければ...。“この顔を見ていると怒れなくなるネー...”と、ママとパパはもう達観した。

あれからまだ数えるほどしか日は経っていないが、ムッシュは何ごともなかったように、今日も元気に散歩に飛び出して行く。

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