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2009年4月20日 (月)

「ROI」「アカウンタビリティ」「クリエーティビティ」

桜もほとんど散って、日によっては汗ばむくらいの陽気になると、毎年、広告電通賞選考会が始まる。これから2ヵ月間、新聞・雑誌・ポスター・ラジオ・テレビ・SP(セールスプロモーション)・インターネット・ダイレクトなどの各部門にわたって選考が進められるのだが、今年も自分としては、まずはSP広告部門の予選会ということで、先週久し振りに汐留まで出かけてきた。
ビジュアル化されたプレゼンテーション・ボードとキャンペーン概要書というかたちで提出されている沢山の選考対象を、一つ一つつぶさに見て読んで、検討し評価するのは、決して楽な仕事ではないが、そこからは、たまたま設けられているSPというワクを越えて、広告というもののいま現在模索されているあり方(目的・メディア戦略・表現手法など)が、凝縮されたかたちで見て取れるので、例年の勉強と楽しみにもなっている。

ただ、昨今の全世界的な景気低迷が広告というものに連動しないはずはないので、それが日本では応募各社の基本政策と戦略・戦術にどう影響し、本質的または形式的にどんな変化として現れるかを注目していたのだが、意外に例年とさほどの違いは感じられず、相変わらず、華々しく話題とアクションを喚起するためにありとあらゆるメディア・手法を動員した、総花的、大盤振る舞いのキャンペーンが目立ったような気がした。
欧米はもっと抑制された状況で、主要企業のマーケターたちは、決して弱気になって単に予算縮小だけに走っているわけではないけれども、伝統的な広告戦略ではこの厳しい事態は乗り切れないと、いち早く変革を目指して体質改善に舵を切り、広告予算の引き締めと内容の見直しにかかっている。それに対し、そういった様子がいまのところあまり見えない日本企業には、まだ余裕があるということなのだろうか?それとも伝統的な戦略がこれからも通用すると楽観しているのだろうか?

そんなことはあるまいと思う。どんな広告主企業も(宣伝部はいざ知らず少なくとも経営陣は)、この厳しい状況は骨身に沁みており、抜本的な政策転換をはかって体質改善策を打ち立てなければならないと思っているはずで、案外、その実現に協力すべき立場にある広告エージェンシーやメディアなどが、伝統の殻から脱して状況の変化に自らを合わせて行くことがなかなかできないでいるのかも知れない。
そのようなことは、実は米国でも、はっきりと調査の結果に現れ始めている。デジタル広告業界誌「アドウィーク」のレポートだが、ブランド・コンサルティング会社ヴァース・グループと調査会社ジュピター・リサーチが共同で昨年末から今年の春にかけて行った年商2億5000万ドル以上の企業101社のCMO(マーケティング担当役員)に対するインタービューの結果では、89%のCMOが、この経済状況下ではこれまでの伝統的な戦略に基づく広告はもはや通用しないと考え、そのソリューションを追求するにあたってエージェンシーが満足できる仕事をしてくれていると考えているCMOはわずか21%、45%のCMOがエージェンシーを、コントロールするのに余計な時間を割かなければならない、厄介の種と見なしているということが判明した。

なぜそういう関係の悪化が生じているのかと言えば、広告主企業の追求するマーケティング目標とそのために必要とされる思考の方向とスキルに、エージェンシーがついて行けていないからということになるようだ。たとえ米国でも、そういう古い体質のエージェンシーは存在するわけだが、このトレンドが後戻りすることはおそらくなく、身を縮めて嵐の吹き止むのを待っているだけでは済まないだろうと言われている。エージェンシーもまた、変革しなければ取り残されて行く事態に追い込まれているのだ。
日本の場合はどうなのか?親しくしている業界の関係者から聞く限りでは、そのような兆候は日本においても例外ではなく、これまで伝統型広告の扱いを中心にしてきたエージェンシーの中にはある種の危機感を抱いているところもあるようだが、このSP広告賞選考という小さな窓から覗き見た限りでは、どうもそれが現場まで伝わっているようには思えず、いささか気になった。

回りくどい言い方をしてきたが、広告主企業は投下した費用に対してシビアに採算を求めるようになってきている。広告は何のためにするのかを考えれば当然の、“広告における「ROI(費用対効果)」の最優先”ということだ。そしてこれは、“提案した広告の成果に責任を持つというエージェンシーの姿勢”すなわち「アカウンタビリティ(成果責任能力)」への期待につながり、さらに、そのような“成果を実現できる根拠に裏付けられた広告表現の独創性”つまり「クリエーティビティ(創造力)」の必要性へと帰結する。
これらは何れも、いま始まったことではないのだが、広告・販促費というものはあらかじめ固定費としてコストに組み込み済みという考え方をする日本の企業では、これまではかけた広告費に対する採算といったものは広告主企業内でもあまりストレートに追及されなかった。エージェンシーも、メディアを仲介した手前メッセージの到達には責任があると思っても採算は自分たちの範疇外という感覚だったし、クリエーティブの独創性というものも、どちらかといえば、採算に結び付く成果を生み出せるかどうかよりも、世間の話題を呼びそうか、表現技術としてどうかといった点で論じられていた。

しかし広告(“マーケティング活動全体”と言った方がより適切かもしれない)のあり方は、インターネットが出現し、コミュニケーションのデジタル化がどんどん進化してきたこの数年、確実に、大きく変わりつつある。送受信メッセージの、その場でリアルタイムでのインタラクション(やりとり)と計測が可能になって、広告はその成果・価値をあいまいにしておいたまま都合よく判断・解釈することが許されなくなり、伝統的なマスメディアは早晩、主役の座をデジタルメディアに明け渡すことを余儀なくされているのだ。
昨年来の景気低迷は、その流れを一気に加速したかも知れない。いま広告主企業は、成果を生み出す仕組みを持った、そしてそのプロセスの見える、“ダイレクトレスポンス”あるいは“セールスプロモーション”的なアプローチをとるオンライン広告をより指向するようになり、メディア別年間広告費の集計・予測にも、このトレンドは如実に現れている。

というわけで、いまさらながらだが、これからの広告・マーケティングのキーワードは、「ROI」「アカウンタビリティ」「クリエーティビティ」であると改めて認識してもいいのではないかと思う。しかし、これまでも散々言われてきたことだけに、蛇足になるかも知れないが、ここでこれらについての自分なりの解釈を述べておきたい。

まず「ROI」――前述したように“費用対効果”という言い方がいちばんわかりやすいと思うが、“対投資利益率”などとも言われて、基本的には“(利益÷投資額)x100”というシンプルな計算式で表される。
広義・原義である会計学用語としては、この式の“利益”の部分が“当期営業利益+減価償却費”、“投資額”の部分が“株主資本+有利子負債”ということになり、ここで論じているような、事業部門や個別のプロジェクト・商品のマーケティング上のROI(狭義)という場合には、“利益”のところが“売上-商品原価-全マーケティング(広告・販促)費”に、“投資額”が“全マーケティング(広告・販促)費”ということになる。

そして「アカウンタビリティ」――本来的・原義的には“会計説明責任”のことだったが、近来的・広義的には“企業の投資家・従業員・融資者・仕入先・顧客などの利害関係者に対して経営者が(または納税者に対して官公庁や自治体などが)負う説明・報告責任”を意味するとされる。
ただしここでは、それを単なる説明・報告責任ということだけではなくて、“企業の部門スタッフからその責任者に対する、部門責任者から経営者に対する、そしてエージェンシーから広告主企業に対する課題実現責任”というところまで踏み込んで解釈している。議論はあるだろうが、長年マーケティングと事業経営に携わってきたものの意識としては、そういうことになる。

さて「クリエーティビティ」だが――これは単に、広告賞を取れそうなアイディアの斬新性といったようなことだけを意味するわけではなく、前述の「アカウンタビリティ」と切り離すことのできない、“広告主企業の課題実現のための、根拠に裏付けられた洞察に基づく、責任の持てる創造性”といったことになる。
そしてこの要素こそは、エージェンシーが最も力を発揮すべき重要な部分なので、「全米広告エージェンシー協会(いわゆる“4A”)」の重鎮たちもこれについては、こんなことを言っている。

-“広告の創造性は顧客の行動に関する知識によって強化される。顧客のハートを射止め
 るビッグなアイディアは、クリエーティブのプロセスに顧客データの分析・解釈を取り
入れることから生まれる。”(FCBドラフト会長ハワード・ドラフト)
-“顧客データは重要だが、それがそのままクリエーティビティに置き換わるわけではなく、エージェンシーには当然、右脳を使ったアイディアが要求される。だが、データに基づく予測ができれば、自分たちの創造の可能性をさらに拡げて新たな機会を創出することもできる。”(DDBワールドワイド社長チャック・ブライマー)

相応の実績もあげ、何れ譲らぬといった自信に満ちた内容の広告キャンペーンに、まとまって触れたことによって刺激を受け、ツイ、最近ずっと考えていた“広告三題噺”をしてしまった。来月はダイレクト広告の選考会とSP広告の最終選考会があるが、また何かを感じて、ものを言いたくなるかも知れない。

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