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2009年4月13日 (月)

ニューヨーク、マジソン・アヴェニュー

会員になっているDMA(Direct Marketing Association=米国ダイレクトマーケティング協会)の日刊e-ニューズレターを介して、米欧の主だった総合/専門紙・誌のデジタル版にリンクし、これはと思う記事のイントロ部分を拾い読みしてはクリッピング(つまりプリントアウト)するのを毎朝の日課としている。
後でまとめて熟読するために取りあえずそうするのだが、先月分をチェックしているうちに、“景気低迷がマジソン・アヴェニューの顧客対応姿勢を正す”といった意味の、「ニューヨーク・タイムズ」の記事タイトルが目に入った。“マジソン・アヴェニュー”というと、自分たちマーケティング・広告畑の人間にとっては“米国広告業界”の代名詞になるので、てっきり、この不況下で広告会社が迫られている体質改善の話かと思ったが、そうではなくて、同じ体質改善でも、高級ブランド・ショップの接客姿勢のことだった。同紙にレギュラー・コラムを持つファッション・レポーター、エリック・ウィルソンが書いていた。

「マジソン・アヴェニュー」は、ニューヨークのマンハッタンを5番街とパーク・アヴェニューに挟まれて南から北へ走るワンウエイの通りで、57丁目から85丁目の間は高級ブランド・ショップが軒を連ねる世界有数のファッション・ロードとして一般的には知られているが、これまでは、専ら財力を誇示して金に糸目をつけない買い物をする富裕層が相手とばかり、高価な時計や靴を身に着けていない客は一目見てお呼びでないと目もくれない、店員の高ピーな態度がとかくの評判だった。
それがこの景気低迷で客足がパッタリと止まったため、昨年の年末商戦時期には背に腹は代えられなくなり、それまでは考えてもいなかった30~40%(中には60%さえも)の値引きセールまで実施したが焼け石に水。ようやく、“接客姿勢の改善による良い顧客関係の形成”という本質的な政策に目覚め、店員が今更ながら必死で顧客サービスのセミナーなどを受けて、手のひらを返したように愛想のよい対応を心がけるようになったというので、本当かどうか、エリック・ウィルソンが実地検証に出かけたというわけだ。

セミナーでは、店の前を通りかかった人なら誰にでも、“いらっしゃいませ、中に入ってご覧になりませんか?”と歓迎の言葉をかけて引き留め、使用限度額の大きいプレミアム・クレジットカードを持っている人は“映画スター”のように扱えとまで言っているらしい。かつては人を身なりで判断し、安物しか身につけていない客には“ハロー”の一言も言わなかった「イヴサンローラン」でさえも、すっかり改心したと言われている。
それを確認するため、ウィルソンはわざと、みすぼらし過ぎはしないにしてもごく質素な、スウェットシャツにGパン、スニーカー履きという服装で10軒以上の店を回ったが、ほとんどの店で、無視・軽視されるどころか、以前では考えられなかったような丁重な対応を受けたということだ。

以下は、ウィルソン・レポートの要旨。

「シャネル」では、買う気もないのに4000ドルの時計を腕に当てていたら、店員がにこやかに近づいてきて、“そういったドッシリとした感じのお品を召されていらっしゃいますと、よりご立派な印象を人に与えるということが書かれた本を読んだことがございます”などと、さりげなくこちらの気持ちを擽るようなことを言われたし、「ラルフローレン」で3つのフロアーを見て回ったときには、17人は下らない店員から、“いらっしゃいませ!”“こんにちわ!”“よろしかったらお探ししましょうか?”などと声をかけられ、まるで自分がこの店の常連だったかのような気にさせられた。
「プラダ」では、8タイプのローファーをそれぞれ3種類のサイズで試着したが、店員はいやな顔ひとつせずにずっと付き合ってくれ、やっとサイズの合うものを見つけたけれども値段が695ドルだったため結局買うのを止めたときにも、その丁重な態度は変わらなかったし、「マックスマーラ」の店員も、こちらの格好を見れば買う気も力もないのがわかりそうなものなのに、“母への贈り物に8号サイズの淡い色のコートを探しているのだが”と言ったら、陳列フロアーだけでなくストックルームまで駆けまわって、5分とかからないうちに、どれもそれなりにすばらしい5つのスタイルの品を取り揃えてくれた。

ただ、「グッチ」に入ったときは驚いた。“何かお探しですか?”と声はかかったが、頭の上の2階から。水着を買うについて相談し試着もしたいと思って、ガランとした1階のフロアーで5分以上待っていたのに、その間は誰も姿を見せず。仕方なく自分であれこれ漁っていたが、あまりに奇抜な柄ばかりなので買うのを止めて帰ろうとしたら、さっきとは別の店員が声をかけてきて、“オヤ、まだいたんですか”だと。“いろいろ見てたんだよ!”と答えると、その店員は“見るだけ、見るだけ、見るだけネ...”と言って、頭を振りながら立ち去って行った。“クーッ!...”この店には不景気の影響はなかったのだろうか?
そんな思いもさせられたので、グッチのディザイナーだった「トムフロイト」の店でも、最悪の事態も起こりかねないと覚悟していたら、実際はその逆だった。入ったとたん、人品卑しからぬ紳士から“何かお飲み物はいかがですか?”と聞かれ、“ミ、水で結構です”と答えると、すかさず“炭酸の入ったのがよろしいでしょうか?それとも...”と聞き返され、1分もたたないうちに銀盆にうやうやしくハイボールグラスを載せてやってきた執事ふうの店員からさらに、“レモンとライムのどちらをお添えしましょう?”と尋ねられた。結局そこではドレスシャツのディスプレーを褒めまくっただけで、コソコソと店を出たが、さすがに、自分の方があまりにも図々しく失礼ではなかったかという気がした。

...と、彼は、マジソン・アヴェニューのブランド・ショップのあまりの変貌ぶりを面白可笑しくレポートしていたが、自分はこういった欧州系の店には縁も関心もなかったから、以前がそんなに酷かったとはツイぞ知らなかった。同じマジソン・アヴェニューでも、最近までときどき買い物をしていた60丁目の「DKNY」や57丁目の「コーチ」などは、昔からごく当たり前に親切だったので...。
ニューヨークにステイしていたころによく行っていたのは、もっと下った44・45丁目付近。アメリカン・トラッドが好きなので、「ブルックスブラザーズ」をはじめ、「Jプレス」「ポールスチュワート」「Jクルー」などが集まっているこのエリアは便利だった。中でも「ブルックス」は、もとアイヴィー・リーガーとそのガールフレンドといった年配の小父さんや小母さんの店員がいて、お洒落談義をしながら楽しく買い物ができたので、ここの本店だけでなく、5番街、旧ワールドトレードセンター前、シカゴ、ボストン、サンフランシスコなどの店にも、機会があった度に立ち寄ったものだった。

日本でもこの世界的景気低迷の影響で、高級ファッション・ブランドの販売が急速に落ち込み、昨年末から「ルイヴィトン」「カルティエ」「フェラガモ」「クリスチャンディオール」などが相次いで、ほぼ全品7~10%の値下げに踏み切った。家内のところにも「コーチ」から、何と“20%割引セール”(特定の品だけだろうが)の招待状が送られてきた。
いくらブランド信仰国の日本でも、この落ち込みは一時的な割引戦略だけで解決するとは思えないが、そのあたり彼らはどう考えているのだろう?一方でのユニクロやH&Mの盛況をどう見ているのだろうか?この未曽有の不景気は良い教訓になったのか?それとも、のど元過ぎたら熱さを忘れてしまうのか?ニューヨーク・クタイムズのレポーターは何も意見めいたことは言っていなかったけれども、また何ごともなかったように元に戻られては敵わないと思っているに違いない。

そういえば、昨年は家の建て替えでそれどころではなかったが、最後にニューヨークを訪れてからもう1年半以上経つ。想像するに、強欲が過ぎて世界的経済危機の元凶となったビジネスの核心部は、まだまだ立ち直れずにいるようだが、それでもきっとこの街の大多数の人々は希望を捨てずに、毎日をまともに逞しく生きているはずだ。
ニューヨークとはそんな、何かがあっても決してそれによってへこたれてしまうようなことのない、不思議な活力のある都市。理解し難い価値観の街マジソン・アヴェニューには特に用はないが、これからも元気な限り何度でも、この地を訪れたいと思う。

秋が深まり、パーク・アヴェニューのナナカマド並木が真っ赤な実で彩られるころにでも...。

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