« 犬はかすがい | トップページ | あと何回?のクラス会 »

2008年11月10日 (月)

不況とマーケティング

まだ間接的にはビジネスの世界に関わっているけれども、第一線を引退している今では、現在の景気低迷の影響を自分自身が仕事上で直接受けることはない。が、前期高齢期(?)にある一消費者としては、諸物価・料金の値上がりと、それによる収入の実質的目減りによって、何かと暮らしにくさが増していることは実感せざるを得ないこのごろだ。
息子たちも、日本の基幹産業に関わる仕事をしているので、この世界的不況の影響を受けていないわけはないと気懸かりだし、いまは家庭に入っている娘についても、新卒者の就職内定取り消しのニュースなどを聞くと、氷河期で苦労していたころのことを思い出す。

間もなく新大統領が就任するアメリカでも、一足先に新首相が誕生した日本でも、まず何より優先しなくてはならないのは経済の回復だと思うが、この問題はそう簡単ではない。消費底上げのための一時的な給付金などは、ないよりはあった方がいいには決まっているが、これが問題解決のための抜本的な効果をもたらすとは思えない。アメリカはいざ知らず日本では、こういう時期の国民心理としては、それを消費に回すよりも貯蓄に回す方を選ぶことが十分考えられるからだ。
だから低迷から脱出するためには、そういった政府による一時的な施策だけを頼りにするのではなく、経済活動に携わるそれぞれの企業自体が、根本的・長期的な方策を講じなければならないと思う。たとえばどんなことを?...これには諸説がある。

アメリカでも日本でも、不景気になると真っ先に講じられる対策というのは、安易な“価格アップ”と“コスト・カット”だ。企業が苦しくなった分を消費者にしわ寄せする自己防衛策は論外だが、何でもいいから単純に支出を削減しようとするのも問題だ。無駄や非効率を洗い出してそれを合理化するのは適切な経営施策で、それだったらとやかく言う筋合いはないが、中身をよく考えない無闇な経費削減はいただけない。
実際に不必要なものと、カットしてはならないものとを区別せず、いちばんわかり易い部分を削って、目的・用途ごとの再検討や配分の見直しを十分にしない場合が往々にしてあるから、折角の可能性まで摘み取ってしまったり、築き上げた信用を台無しにしてしまったりして、ときに自らの首を絞めるような結果を招くことすらある。

不況時でも、費用を投下すべきところには投下しなければならないのが現実で、大事なのは、どこに、どんな目的に投下すべきかを見極めること。そして、その目的を達成するために最善の方法論――というか戦略――を模索することだ。
まず目的の設定だが、こういった厳しい環境の中では、単純・短期的な消費促進ということだけでは不十分で、長期的なスパンの中での、“顧客信頼の確立”ということこそが不可欠になってくると思う。つまり、どんなときでも“顧客の支持”という手応えを感じ取ることのできる物理的・精神的基盤を持った企業を目指すということだが、これは、イメージやかたちだけではない真の意味での「ブランディング」、あるいは「ブランド・マネジメント」ということになるのではないだろうか。

念のため言っておくならば、自分は「ブランド」という概念を、“企業が顧客に対して約束し実行する、期待を裏切らない「品質」、安心できる「取引」、満足できる「サービス」などによって生み出される、競合他社に対する優位性”と解釈しており、ブランディングまたはブランド・マネジメントとは、そのような“ブランドを形成し維持するための継続的な活動”と理解している。
この目的は、何も不況時に限らず、現代の企業経営・マーケティングにおける大命題だが、それを遂行するための方法論としては、今日の情報コミュニケーション環境の中では、少なくとも、対照的な2タイプの考え方=戦略が存在する。

その一つは、“トップダウン”とも言われる、エスタブリッシュされた伝統的大企業の立場からの考え方で、①いまのような経済環境の中でも広告投資をセーブしようと考えるのは誤り、②むしろこの環境はそれを増強して挑戦を試みるべきユニークな機会、③これを成長のチャンスととらえてより強いブランドをつくることこそが必要、などという、不況だからこそ特色ある広告のための費用投下を推進しようというもので、強いブランドはより強く、そして生存競争に勝ち残って行かなくてはならないという思想が垣間見える。
それぞれ、①は「バンクオブアメリカ」の広告担当役員アンヌ・サウンダース女史、②は「アメリカンエキスプレス」のマーケティング担当副社長クレア・ベネット女史、③は「チャールズシュワブ」のマーケティング担当役員レベッカ・サージャー女史らによる、本年10月16~19日にフロリダ州オーランドで行われたANA(Association of National Advertisers=全米広告主協会)コンベンションでの発言だ。

もう一つは、上記とは対照的に自ら“ボトムアップ”と称する、Web2.0の申し子のような業態の企業の考え方で、ANAコンベンションと同時期(10月11~16日)にラスベガスで行われたDMA(Direct Marketing Association=全米ダイレクトマーケティング協会)の年次カンファレンスで、基調講演の一つとして「クレイグリスト」の創業者にして顧客サービス責任者のクレイグ・ニューマン氏がプレゼンテーションした内容に代表される考え方。
すでにご承知の読者も多いと思うが、クレイグリストとは、米国サンフランシスコで1995年に創業した、生活情報・求人・家探し・出逢い・物品交換・売買といった地域メッセージ交換のための、大規模な個人向けネット掲示板。専門的に言うならソーシャルネットワーク・サービスの典型、WOM(Word of Mouth=口コミ)マーケティング・サイトだ。大都市での求人情報と不動産情報からは広告料を徴収し、それで経営を成り立たせているが、個人の場合は無料で、世界50ヵ国・567都市で利用されており、サイトのページビューではトップ10に入ると言われている。

ニューマン氏はその肩書きの通り、いまも顧客サービスの仕事に直接関わり、会員の話に耳を傾け、話し合い、約束をしてはそれを実行することを続けているが、彼の事業の核であるオンライン・コンテンツのほとんどは、会員からの提案に基づくものであり、その仕事を通じて彼は“価値を分け合う”という意味を知ったと言っている。
そして彼は、“ブランディングは今日、企業からのトップダウンでは成功しない。ブランドは、いま本当に何が起こり何が進行しているのかを本音で語ってくれる信頼できる友人・仲間との間の情報共有の中で形成される。人々は、何が信頼でき何が真実かを、誇大や見せかけの多すぎる一方的なメディア広告というシステムを通じてではなくて、ソーシャルネットワークという仲間同士の関係網を通じて見出している。”――と結論づけているが、これはまさに、“顧客がブランドの価値を決める”という、ボトムアップの考え方だ。

確かにいま、長期的・基本的なブランディング戦略として、あえてこのようなオンライン・ディスカッションやブログなどの場に商品やマーケティング目的を露出し、意見交換や客観的な評価を通じてブランド価値を形成しようとする企業が増えているが、現在のような経済の長期的低迷が予測される状況下で、読者諸氏はどう考えられるだろうか?
この2つの例は極端な対比かもしれないし、二者択一すれば良いという問題でもないと思うから、いま自分にも、将来の方向性についての見解はあっても、現時点での明確な正解はない。当然、より妥当な第三・第四の考え方があっても然るべきなので、各位の考えをぜひ聞かせていただけたらと思う。

何やら、ここで取り上げた2タイプの戦略の方向性の違いは、米国でこれまで保守党政権がとってきた経済政策と、これから民主党政権がとろうとしているそれの違いを反映しているような気がしないでもないと、書いているうちに思えてきたが、どうなのだろう?

|

« 犬はかすがい | トップページ | あと何回?のクラス会 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 不況とマーケティング:

« 犬はかすがい | トップページ | あと何回?のクラス会 »