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2008年9月16日 (火)

風立ちぬ

9月ももう半ば。早いもので、横浜の家からここ清里の森に移ってきて、もう2ヵ月になろうとしている。

朝目が覚めて部屋の窓を開けると、冷たい空気がサーッと室内に流れ込み、見上げると抜けるように青い空をバックに、木々の梢がサヤサヤと揺れている。時計を見ると7時半にはまだチョッと間があるが、1階でムッシュが“ワッ!...” “ワッ!...”と、2階の様子を窺いながら啼いている。
家内が隣室から、“ムーちゃん、もう起きたの...”と言いながら、先に階段を下りて行き、自分は洗顔と歯磨きを済ましてから行くが、そのころはもうムッシュはケージの外に出してもらっていて、キッチンにいる家内の足もとから自分をめがけ、一目散に走ってくる。そんなムッシュに、“お早う...よく寝たね”といつも同じ言葉をかけるのが、特別な予定のない日の朝の慣わしだ。

その後すぐ、ムッシュに“行こうか?”と声をかけて散歩(兼用足し)に連れ出すが、11月で8歳になるのに元気一杯。子犬のようによく走るので、こちらもつい、それに釣られて走ってしまう。100%は付き合いきれないが、できるだけ一緒に走るようにしていると、いい有酸素運動になる。
先週末は2週間ぶりで東京に出かけたが、もう涼しくなったかと思っていたらまだ30度前後はあって、残暑という感じだった。当日は早朝6時に森の家を出たが、気温は何と12度。その日は最高でも20度前後だったようだ。実際、このところ清里の森からは夏が完全に去ったようで、自分のように皮下脂肪の蓄えがなくなってしまった者にとっては、朝夕はウールのセーターを着て丁度良いくらいになっている。

それだけに、日中の散歩は実に快適で、頬をなぶりながら森の中を抜けてゆく風の気配に、柄にもなく、昔読んだ堀辰雄の「風立ちぬ」を思い出した。
別にああいった小説に傾倒していたわけではなく、文学全集中の一作品として通り一遍に読んだだけで、ハングリーで毎日を精一杯生きていた自分とは縁のない世界と、そのときには実感もなければ、イメージも湧かなかった。が、いまこうして、あの作品の舞台と同じような環境の中で晩夏を過ごしていると、断片的に記憶に残っている作中の地名や情景や季節感が、リアリティを持って蘇ってくるような気がした。

「八ヶ岳山麓」「南アルプス」「落葉松林」「白樺の木蔭」「下生えの羊歯」「郭公」「茜色を帯びた入道雲...」「九月になるとすこし荒れ模様の雨が何度となく降ったり止んだり...」等々、どれも、作品が書かれた70余年前(1936年)もいまも変っていない。あのサナトリウム(富士見高原療養所)も、「長野県厚生連富士見高原病院」として現存している。
もっとも、厳密に言うと、富士見高原が標高1000メートルなのに対して清里の森は1400メートルだし、八ヶ岳を軸にしての方位も、清里高原は富士見高原より90度東に振れているから、季節の変わり目はひと足早く、こちらに訪れているのかも知れない。

根が至って単純なので、チョッとしたことからすぐに、そんなベタな連想をするが、気持ちよく散歩しているときには、ムッシュとの対話(と言っても他人が聞けば独り言)の合い間に歌も出る。そんなに大声を出すわけではなく、口ずさんでいる程度だが、森の中なので誰も聴いていないのを良いことに、結構まじめに歌う。

歌も楽し 山小路 香れる 朽ち葉踏みて 
行きゆけば 梢の 小鳥 歌う
夏の光 葉漏れる陽は 我らが 歌も楽し    
(ドイツ民謡/高橋信夫作詞「歌も楽し」)

野バラ咲いてる 山路を 二人で 歩いてた
夏の太陽 輝いて 二つの影 うつしてた
今はない君の 面影 求めひとり 僕は行く
(市川染五郎=現松本幸四郎作詞/作曲「野バラ咲く路」)

30分から小1時間の散歩中に2~4曲くらい歌うのを常としているが、いまの季節に必ず口をついて出るのがこの2曲。どちらも、周りの情景と気分にピッタリなのだ。
一緒に歩いているムッシュは、“また始まった”と思っているのだろうが、そのうち条件反射で、散歩の度に“歌って”とせがむようになったりして...ンなことはないか。

つい数日前の朝は、庭の木立の枝から枝へ、子リスが飛び回って遊んでいた。真冬と真夏は姿を見せないはずなので、彼らも秋の訪れを感じて出てきたのだろう。
以前、足繁く山荘通いをしていたころは、皿に入れた餌を出しておいてやると、よく目の前のベランダまで食べに来ていたものだったが、こちらがたまにしか来なくり、餌を出しておいてやるのが途切れ途切れになってからは、めったに姿を見ることができなくなっていた。今回は彼らが冬眠するまでズッと居るわけだから、また、餌を出しておいてやることにしよう。

このところ、夜半の月明かりが煌々とまぶしいほどなのに気が付いたが、考えてみたら、十五夜の満月のようだ。
土地のスーパーのチラシにも、“十五夜大特集――月見団子(餡入り/餡なし)・茨城産生栗・岐阜産松本早生柿・千葉産土里芋とりそろえました”などとあった。

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コメント

お茶の水・湯島聖堂では、今日も蝉の声が聞こえてましたね。

投稿: 課長007 | 2008年9月17日 (水) 02時34分

秋深まり既に冬の足音のほうに近づく清里の今を読ませていただき、夏以来その場所を離れております私ですが、紅葉の美しきころにもまた中央道を走らせて行きたい気持ちそそられますが・・・。時間が取れますやら?
ムッシュちゃんとの会話・・鼻歌、シーンが目に浮かぶようです。
今年始め混声コーラスで「歌も楽し~」歌ったこともまた思い出されて・・・。
都度の更新、清里日記etc.楽しみにさせていただいています。
更に寒さは深まることと・・・。お体大切に!

投稿: まみ | 2008年9月17日 (水) 11時31分

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