« 春待つ清里 | トップページ | アウトレット »

2008年4月14日 (月)

モバイルマーケティングは本物になるか?

自分のように組織に属さず単独で仕事をしていると、情報収集や調べものはすべて自力でしなければならないが、そのために図書館に出かけたり書店巡りをしたりするのには、どうしても時間的・体力的に限界が出てくる。だから、かねがねその目的でインターネットを利用しているわけだが、中でも、DMA(Direct Marketing Association=米国ダイレクトマーケティング協会)が発行している「DMA’s Daily Digest」(略称3D)という、米国の全国紙・主要ビジネス誌をカバーした日刊のデジタル・ニューズレターは、貴重な情報源だ。
ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、シカゴトリビューン、USAトゥデイ、ビジネスウィーク、フォーブスなどから、アドバタイジングエイジ、メディアポスト、DMニュース、カタログサクセス、Eコマースタイムズなどまで、そのときによって違うが常時約20のメディアの、目ぼしい記事のタイトルとその“掴み”の部分が掲載され、そこから各紙・誌のオリジナル全文にリンクできるようになっていて、たいへん重宝している。

前置きが長くなってしまったが、その“3D”に、昨年ごろから目立って、“モバイルマーケティング”という用語を含むトピックスが多くなった。上記のような主要紙・誌上のどこかに、毎日のように関係記事が載っているだけでなく、その名もズバリ「モバイルマーケター」などというデジタル専門誌も、昨年あたりからレギュラー・メディアとして加わるようになっている状況だ。
特に「ニューヨークタイムズ」は、モバイルがらみの話題を頻繁に取り上げており、今月の初めにも、AP通信のレポートとして、“モバイルコマースが日本のEコマースだ”と題する記事を掲載している。

これは、日本最大級の女性向けEコマースサイトを運営している「ゼイヴェル(Xavel)」社が主催する隔年ファッションイベント「東京ガールズコレクション」で、参加女性がそのショウ自体に熱狂するのみならず、そこで発表された服飾品を、競うように携帯電話を通じて購入申し込みをする様を報告しているもので、“日本人は、Eメールでニュースを読む、レストランを探す、ブログを書く、買い物をするなど、米国人がコンピューターを使ってすることのほとんどを、携帯電話を通じてしてしまう。”と、誤認(日本人全体がそうでもあるかのように)を含めていささかオーバーな書き方をしているが、そんなところにも、同紙のモバイルマーケティングに対する関心のほどが感じられた。
事実同紙は、以前からしきりと、携帯電話を通じてのマーケティング目的でのメッセージ発信に対する消費者動向に注目しており、この記事の1ヵ月前にも、“伸びるモバイル広告”、“もはや携帯電話はインターネットやテレビ以上に止められない”、“ソーシャルネットワークは携帯電話に向かっている”などの記事を、立て続けに掲載して、米国におけるもモバイルマーケティングの胎動のようなものを伝えている。

同じ日に、ダイレクトマーケティング専門誌「DMニュース」は、ラスベガスで行われた本年度のCTIA(Cellular Telecommunications and Internet Association)のビジネスショウで、「アマゾン・ドットコム」から“TextBuyIt”という、テキストメッセージで商品を検索・購入できる、モバイル用の新システムが発表されたことに注目し、その紹介と論評をしているが、このシステムは、現行の携帯電話で可能な限りのステップを踏んで、パソコンでの購入プロセスを忠実にフォローしているものであるだけに、まだまだユーザーにとってはそんなに使い勝手のいいものとは言えないとしている。
そしてさすがに、専門誌らしく慎重に、こうしたシステムやショッピングパターンはまだ揺籃期にあり、モバイルマーケティングのブーム到来などと宣言するのは時期尚早と、筆勢を押さえながらも、一方では、いまの携帯電話普及の伸び率を見ていると、そういったブームが早晩訪れるはずと期待してもおかしくはないとも、言っている。

広告業界ではこのところ毎年、“次のブームはモバイルマーケティングだ”と言われ続けてきたが、「アドバタイジングエイジ」の同時期号は、“08年も、まだ無理だろう”という観測をしている。というのも、データ的に見ると、全米携帯電話契約者2.19億人のうち86.7%の人はそれを話すためだけにしか使っておらず、残りの13.3%の人も、携帯電話を通じてウエブサイトを利用した経験は浅く、企業のマーケターも、それを通じて接触できる市場はまだ極めて限られていると見なして、あまり力を入れていないからだ。
ただ彼らも、携帯電話が単独でマーケティングを完結できるメディアではないにしても、テレビCMや印刷広告やインターネット・コミュニケーションにそれを組み込むことによって効果を大幅に増幅させることができる力を持っていることは認識し、携帯電話によるEコマース、すなわち“モバイルコマース”の他には、いわゆる“モバイルクーポン”の発行による店舗への集客とその結果としての販売といった方向での使い方に注目している。

日本でも、2008年3月末の「電気通信事業者協会」の統計には、携帯電話の契約者数が1億人を超え、その中で9割近くの人がメールやサイトの閲覧ができる契約をしていると発表されている。だからそれだけを見ると、携帯電話でアクセスできる市場は十分にクリティカル・マスに達していると言えそうな気がしてしまうが、「携帯インターネット利用白書」によれば、マーケティング目的のメッセージに反応しているユーザーの主力は、実態として、10代の男女、そして20~30代の女性ということのようで、きわめて偏っている。
自分も、2001年に上梓した前々著「進化するデータベースマーケティング」の中(同書254ページ)で、当時での携帯電話マーケティングの状況と展望を要約しているが、この市場の本質的な問題は、当時もいまも変っていない。

確かに携帯電話は、常にユーザーの傍にあるわけだから、すべての業種・業態に通用するとは限らないにしても、ユーザーをその行動路線沿いの商業施設などに誘導するというピンポイントしたメッセージの送り方が有効だろうということは理解できるし、マスメディアと連動させれば、ユーザーを購買というアクションに導くのには大きな効力を発揮するだろうということも容易に想像できる。現実的にもそれは既に、モバイルクーポンなどのかたちで実践されているわけだが、その受け皿となる商業施設側の体勢が必ずしも整っていないことが、ネックになっているようだ。
それではモバイルコマースはどうかと言えば、2007年度の「情報通信白書」での、全インターネット利用者のうち端末としてパソコンと携帯電話の両方を使っている人が69.7%で、携帯電話だけの人は7.9%に過ぎず、パソコンだけの人の22.4%にも遠く及ばないという報告に、実態のカベを感じざるを得ない。前述のゼイヴェルのような事例はあるにしても、やはり市場の特殊性と、ハードウエアとしての携帯電話の使い勝手の問題がバリアになっているのではないだろうか?グーグルやヤフーやAOLが進出している“モバイル検索サービス”についても、同じことが言える。

しかし、インターネット利用における携帯電話とパソコンの可能性を比較予想するのは簡単なことではない。それぞれのユーザーは、利用状況や利用目的すなわち“シチュエーション”と、情報への接触態度すなわち“情報リテラシー”が異なるからだ。携帯電話の市場年齢や性別に極端な特徴があるのは、そういうことではないのだろうか?
...と、耳学問で知ったようなことを書いてきたが、本人は携帯ショッピングはおろか、モバイルクーポンを利用したことすらない。新聞折込チラシから切り取ったクーポンを持たされてマックの列に並び、隣の列で携帯電話をかざしてモバイルクーポンを店員に見せているチビッ子連れのヤング・パパやママの様子を、珍しいものでも見たようになるほどと感心しているばかり。

では、携帯電話がパソコンとまったく同じ使い勝手になったらどうするかと聞かれたら、自分はどう答えるか?...やっぱり携帯電話は使わないと答えるだろう。なぜなら、あの文字の小ささ、キーボードのコンパクトさには、目と指がついて行けないから。また、あんなものを通じて買い物をする気にはなれないという、理由にもならない理由から。もうすっかり忘れてしまったが、オンライン・ショッピングの始まりのころも、いまの自分のような人たちはそんなことを言っていたような気がする。
いずれにしても、モバイルマーケティングが本物になるには、米国でも日本でも、もう少し時間がかかりそうだ。

|

« 春待つ清里 | トップページ | アウトレット »

コメント

始めまして。日常のことからマーケティング概論まで幅広いコラム、いつも楽しく拝見させていただいております。

さて、過去のブログの中で、リーダーズダイジェストに関する記事を拝見したのですが、昨年度からリーダーズダイジェスト・ジャパンとして日本市場に再参入されているとの情報をWikipediaで読みました。(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%83%88)これは中澤様がされておられるのでしょうか?なんでも本部はオーストラリアのシドニーにあって、そこから日本の会社を通して販売されておられるとの事で、可能であれば入手したいと思いあちこち探しているのですが、なかなか見つかりません。そのうち書店などでも手に入るようになるのでしょうか?日本向けの公式ウェブサイト(http://readersdigest.co.jp/)も設置されているのですが、購入方法がいまひとつ判りませんでした。

その昔リーダーズダイジェストをとても楽しく読ませていただいたので、今後の展開がとても楽しみです。

投稿: Jガッタス | 2008年5月14日 (水) 02時50分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: モバイルマーケティングは本物になるか?:

« 春待つ清里 | トップページ | アウトレット »