« 往く夏 | トップページ | 優しい時間 »

2007年9月10日 (月)

“顧客にとっての価値を創造する”...とは?

6月にニューヨークに行ったとき偶然DM Days New Yorkで知り合って意気投合したS氏が社長をしているI社で、8月から非常勤で(月2日ほど)アドバイザーをすることになった。かねがね、自分がこれまで積み重ねてきたダイレクトマーケティング上の経験や知見をぜひ次の世代に伝えておきたい、自分にはその義務があると思っていたところ、それを彼の会社で実現してみないかという提案があったからだ。
I社は、急成長して社員数も現在100人を超えている、この分野ではトップ・クラスの独立系ダイレクトマーケティング・エージェンシー。若い人が多く、社員は学習意欲に燃え、会社としても社員の教育に熱心なので、まずはその研修プログラムの一端を引き受けるところから始めようかと、先月すでに2回、勉強会を行った。

これまでのところは先ず、どんな立場であれダイレクトマーケティングに関わる者にとっては不可欠な、「効果測定」「テスト」「損益管理」などの“基盤ノーハウ”と、「プランニング」「マーケティング・プラン」「キャンペーン・マネジメント」といった“実践スキーム”について話をしてきたが、今月からはいよいよ、より幅が広くて奥の深い「クリエーティブ」の話しをすることになっている。
そんなわけで、いま、今度の勉強会ではぜひ実のある役に立つコンテンツをアウトプットしなければと、あれこれ頭を捻りながら、テキストとプレゼンテーション・スライドを組み立てているところだ。

自分は今でこそマーケティング研究者として、本などを書いているが、もともとはクリエーターの端くれ、最初の何年間かは(実はエージェンシーの世界に入ってからも初めのうちは)自分でダイレクトメールやレスポンス広告のコピーを書き、レイアウトもしていた。だから、実務を離れた今も、そういうことを考えるのが嫌いではないし(感覚がシャープかどうかは別として)、何かを書いたり表現したりすることには大いにこだわっている。
責任の持てる研修資料を用意するのは、決して簡単なことではないのだが、今回に関してはそういうわけで特に力が入っていおり、あれもこれも話したいと、次から次へと構想やフレーズが浮かび、なかなかまとまらない。でも、そんな状態でいつまでも堂々巡りしているわけにも行かないので、話しの“スタンス”と“方向”を、自分なりに、しかし独善に陥らないようにしっかりと裏づけもして、まとめてみた。

結論だけ言ってしまえば“ナーンだ、当たり前じゃあないか”と思われるかも知れないが、一つは、「どんなに商品が素晴らしくても、広告メディアに金をかけても、販売流通網を万全にととのえていても、市場・顧客に対する“伝え方”が下手だったり、間違っていたりしたら、それらが台無しになってしまう。その意味で“クリエーティブ”の役目は重大だ。」ということ。そしてもう一つは、「市場・顧客にとっての意味が考えられていないものであったら、決して受け入れられることはないだろう。商品だけでなく、クリエーティブにもまた、その“視点”がなければならない。」ということだ。
それを表すのに、自分では、“商品を顧客便益の面から語れ”とか、“顧客のレスポンスが何よりの評価”とか、“使命を認識し価値を生み出し高めることを目指せ”とか、クリエーティブの技術・意識・目標についていろいろなことを言っているのだが、それらを捻り出す過程でさまざまな参考文献に目を通しているうちに、決して目新しくはないが、クリエーティブの座右銘として何やら意味深長に思える、一つのフレーズに行き当たった。

それは、誰が最初に言ったか、いつ頃から言われているかはわからないけれども、“Create Value for Customers”(顧客にとっての価値を創造する)というもの。何となく有難みが感じられる半面、わかったようでいてもう一つピンと来なかった言葉だが、ダレル・リーア(Darrel Rhea)という米国のカリスマ的ブランド・ディザイン・コンサルタントは、「ビジネスウイーク・オンライン」の2005年8月9日号に寄せた「人はなぜ買うのか」という論文の中で、この言葉について次のように言っている。
「われわれ人間は、自分のとった行動に意味づけばかりしている。その行動が自分にとって意味のあるものだったと思いたいからだ。だから、何か商品を買おうかどうしようかというときの意思決定も、それが自分にとって意味のある経験になるのかどうかの判断によってなされる。逆に言えば、そうすることに意味があるということを納得させれば、購入の意思決定をさせることもできるわけで、そのような“意味”を考え出すことが“価値の創造”なのだ。」と。
以前にもどうも似たような話しを聞いた気がすると思って調べてみたら、米国の高名な社会心理学者ロバート.B.チャルディーニ(Robert B. Cialdini)という人の著書「影響力の武器―なぜ人は動かされるのか」にも、ほぼ同様のことが書かれていたことがわかった。

前者は市場調査や企業のブランド・ディザインなどに携わる人々の啓発のために書かれた一文であり、後者は本来“交渉術”というものを人間心理の側面から分析した学術書的著作だが、どちらも“人の心を動かし、納得させ、行動に誘導する”ということを語っている点では、まさにダイレクトマーケティングのクリエーティブ目的と重なる。
“顧客にとっての価値の創造”というテーマを中心に据え、そのための“基本スタンス”と“具体的作法”の話で構築した自分のプレゼンテーションも、どうやら見当違いではなかったようで安心した。今度の勉強会が何だか楽しみになってきた。

|

« 往く夏 | トップページ | 優しい時間 »

コメント

こんにちは

実は全くマーケティングに無知だったのですが、思うところがあり(生活に追われて?)今年一年かかってワンツーワン販促支援システムを開発しました。暴挙でした。
印刷関連のサービスをしており、オンデマンド印刷機の導入とともに、可変印刷など対応を整備したにもかかわらず、クライアント企業の大半が全く顧客管理をしていないことが判明。可変印刷など夢のまた夢なのです。
せいぜいDM宛名書き程度しかできないのですね。せっかくの機能も持ち腐れです。頭にきた!!


それでは一丁作るかと、企業サイドでワンツーワンのDMやメールが作成できる仕組みを開発したのですが、やってみて驚いたことには、既存システムでは分析やフルフィルメント系は存在しても、メディア作成支援のシステムは存在しないのですね。
最新CRMシステムで一生懸命に顧客データの分析をしても、いざメディア作成になると途端にアナログ作業にもどってしまいます。ワードやエクセルでシコシコ。こういう現場が多いのではないでしょうか。
おそらく、販促の現場では分析やフルフィルメントと同等くらいに、このメディア作成の手間隙は膨大であるはずなのに、何ら解決策が提示されていないのは不思議な現象です。
クリエイティブは芸術家が手作業で作成するものとでも言うのでしょうか? 代理店に丸投げかな?
(おそらくセールスやマーケ担当者の残業はこの作業ではないかと思います)

ちなみに私が(酔った頭の思いつきで)開発したものは販促文章テンプレートの中身を、顧客属性やRFMの値により可変代筆にし、デザインテンプレートを利用して自動レイアウトさせるものです。まあ、直子の代筆の雛形文章を顧客属性で自動更新し、自動組版システムがついたようなものですか。
ついでに外注時の暗号化とかDTPソフトとの連動も作ってみました。
こういう販促メディア作成お助けシステムがどうやら存在しないみたいです。
クリエイティブの作成といっても、アイデアをひねる形而上学的頭脳労働以外はかなりの定型的作業があるはず。
かなりの部分は自動化できるはずですので、手作りのダイレクトマーケ用クリエイティブをやらなくても良いと思うのですが。手間やコストがかかりすぎでは簡単にダイレクトマーケティングに進めません。


大手の企業でもマス対応のフルフィルメントシステムなどは装備されているのに、新しくダイレクトマーケティングを開始しようとしても、テストマーケティングすら簡単には行えない様子。これからの課題ですなんて言っている。システムが硬直化しているのか、大量印刷しか受注しない印刷外注を利用しているのか。はたまた人材不足か。
市場不透明な時代にこそテストマーケティングは大切だと思うのですが、また最初はリターンが読めないからこそ気軽にローコストにテストを実行できる仕組みが必要ではないかと思うのですが。
それにコンピュータが貢献できる比率でいえは、たとえばプロのマーケターへの貢献度より、新入社員やパートさんがマーケティングの真似事ができるための貢献度のほうが高そうです。
新入社員が暗中模索・試行錯誤せず、ダイレクトマーケティングができるような仕組みは存在しませんね。


高度な数式を駆使した分析も大切ですが、こういう現場のドロドロ解決も必要ではないかと思っております。
素人の発想でした。

投稿: 鈴木 | 2007年12月17日 (月) 19時55分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: “顧客にとっての価値を創造する”...とは?:

« 往く夏 | トップページ | 優しい時間 »