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2007年8月13日 (月)

広告の“パーソナライゼーション(個人化)

自分のビジネス・キャリアの3分の一近くは、エージェンシー(広告代理店)で経営とプロフェショナル・サービスに携わっていたので、今でも、業界の動きにはなかなか無関心ではいられない。中でも興味があるのは、数年後にやってくるテレビの地上デジタル放送への全面切り替えを控えて、在来型のエージェンシーがどう舵を切ろうとしているかだ。
米国ではすでに、マイクロソフト、グーグル、AOL、WPPグループ、ピュブリシス・グループがそれぞれ、aQuantive、DoubleClick、Tacoda、24/7Real Media、Digitasを買収するなど、インターネット・ポータル、オンライン広告会社そして伝統的なオフライン・メディア主体の広告会社の間での結びつきが加速しているが、日本では業界全体としてはあまりそのような動きが活発化していない(ように見える)。しかし調べてみると、某超大手エージェンシーなどは、数年前から着々と手を打っているようである。

ところでインターネット・ユーザーなら、今どきグーグル、マイクロソフト、AOLを知らない人はいないが、WPPとかピュブリシスと言われても、広告業界の現役にしかわからないのではないかと思う。両社とも名の知られた伝統的国際広告代理店を束ねる世界規模のコングロマリットで、これにオム二コム、インターパブリックを加えた4つのグループがそれぞれ、絶えず傘下会社の争奪戦を繰り広げ勢力地図を塗り替えているので、この世界から離れて久しい自分などには、最近の状況がどうなっているのかサッパリわからない。

さて、こんな業界話を前フリにしたのには訳がある。8月6日付のニューヨークタイムズ(正確にいうとnytimes.com)に掲載された、前述のピュブリシス・グループのDigitas買収に関する記事に興味を惹かれたからだ。
ピュブリシスは約半年前にDigitasを買収したが、その狙いは、コンピューターや携帯電話の画面を通じて、さらに行く行くはデジタル化されるテレビの画面をも通じて、オーディエンス(視聴者)の一人一人に適合させた広告(パーソナライズド広告)を発信する世界的規模のデジタル広告ネットワークを構築しようというところにあるという。

「パーソナライズド広告」とは、言ってみれば、テレビのスポットCMに代表されるマス市場に対する画一的メッセージではなく、データに基づいて、一人一人の消費者・顧客に対しどの瞬間・機会にどんな広告を見せたらよいかを見極め、対象者のプロファイルによって、またタイミングによって、発信する広告のコンテンツ(コンテクストと言った方がより正確かもしれない)を多様に変えて行くもので、“データベースマーケティングの広告版”とでも言ったらイメージし易いかも知れない。
それには、広告の対象となる個々の消費者・顧客に、その年齢・居住地域・購入履歴・広告接触歴・行動パターンなどによって、“最初に見せる広告”、“それをフォローする広告”、“商品購入後に見せる広告”等々、一つのブランドについて多種・多様なバージョンを用意する必要が生ずるが、消費者・顧客との満足に裏打ちされた関係を維持して行くには、今やそうすることが不可欠という考え方になっている。つい10年前までは、一つのブランドについてせいぜい3~5バージョンの広告を用意しておくというのが普通だったが、米国ではすでに、4000バージョン以上を使い分けている企業も何社かあるという。

このような動きは、情報のかたちと消費者の情報への接し方が変化してきたことに起因するものであると同時に、広告会社がグーグルやヤフーやマイクロソフトとの競合状況を意識しての対応策とも考えられるが、ピュブリシスはあくまでも、これらの“オンラインの巨人”たちと広告主との間の“最も適切な仲介者”の立場を確立しようとしている。
“WPPグループの総帥マーチン・ソレル氏はこの3社を広告エージェンシーの敵であると公然と言い放っているが、私はそうは思わない。彼らは広告エージェンシーよりもメディアであることの方に関心を持っており、したがって私は、かつてCBSやABCやタイムワーナーやその他のメディア・グループとパートナー関係を維持してきたように、彼らをパートナーと考えている。”というモーリス・レイ会長の談話は、それをよく表している。

「パーソナライズド広告」すなわち“データベースマーケティング的広告”という発想は、本来、マスメディア広告に慣れきった伝統的な広告エージェンシーの中からは出てこなかったはずのものだが、市場の拡散と情報総デジタル化という環境の変化、そして広告主企業のより厳しいROI(投資効果)の要求の中で、否応なくそれに目覚めたのだろうか?
この記事を読んで、これこそ、自分が常日ごろ繰り返して叫んでいる“在来型マーケティングにおけるダイレクトマーケティングの原理とシステムの適用”ではないかと思っていたら、果たせるかな、一連の買収・提携劇の一方の主役はダイレクトマーケティング・エージェンシーであった。ピュブリシスの相手のDigitasは、永年にわたりダイレクトメールによるデータベースマーケティングを極め、インターネットの出現に伴いそれをオンライン広告の細分化に適用することに成功した、紛れもないダイレクトマーケティング・エージェンシーだし、AOLの傘下に入ったTacoda(このブログの2006年12月18日参照)にしても、基本的にそうである。

“世界中の広告のほとんどがデジタル化されパーソナライズド広告が一般化するのはもはや時間の問題だ”と、Digitasのデービッド・ケニー会長は言っているが、その日は思っているよりも早くやって来るかもしれない。

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コメント

大学時代にちょっとだけパブリシスでバイトをしたことがあります。
非常にシステマティックな会社という印象でした。
何をすると何が何%上がりました、というようなマーケ重視の会社が
最後にたどり着くのはやっぱり
「あなたはこの商品を買いますか?」ということなんだと思います。
森を見て木を見ず、ということがこの業界には多すぎるから。

CMなどのマス広告から商品の存在を知ることはあっても、
それが「欲しい!」に直結することはまれです。
結局はamazonやiTunesがやっているような
「あなたにはこれがオススメ」の精度を上げるのが近道なのかもしれませんね。

投稿: RJ | 2007年8月13日 (月) 11時16分

お暑うございます。

「ソーシャルメディア@DM DAYS」の記事をリンク先で引用・トラックバックしたのですが、拙ブログとniftyとの相性が悪いようで3回トライしましたが失敗でした。^^;

この8月からの新天地では、ソーシャルメディア構築を生業としており、

“パーソナライズ”や“レコメンデーション”のキーとなる“プロファイル”や“コンテクスト”を大量に抱え、自動生成するメディアですので、

テレビの視聴時間をどんどん減らしてしまうような“エクスペリエンス”を、どんどん提供していければなどと企んでおります。

投稿: 課長007 | 2007年8月15日 (水) 13時53分

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