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2007年7月 2日 (月)

ソーシャル・メディアでマーケティングが変わるのか?――DM DAYS NEW YORK 07から

ジャヴィット・コンベンションセンター今年もK.ジャヴィット・コンベンションセンターで、6月19日から3日間、毎朝8時半から午後5時(最終日は午後3時)まで(レセプションを入れると午後7時までのときも)、9つのトラックにわたる1日26~27合計約80のセッションと、3日で4つのキーノート・プレゼンテーション(基調講演)が行われ、1100社以上におよぶダイレクトマーケティング関連サービス企業の出展があった。
キーノート以外は、同じ時間帯に複数のセッションが同時進行するので、自分1人では必ずしも興味あるセッション全部に参加するというわけには行かず、目一杯がんばってはみたものの、カバーできたのは結局キーノート全部と、初日4、2日目と3日目それぞれ3、計10の同時進行セッションのみ。いつもながら、こういう機会に参加するのは、できたら複数がいいのではないかと思う。といってもそれは、どれをとっても参加する価値のあるセッションばかりという前提があってのことで、カタログ上のタイトルとリード・コピーに惹かれて選んだ結果が大はずれということもあるから、なかなか難しい。

今回は「ソーシャル・メディア」がコンファレンスのメインテーマで、キーノートはすべてそれに関連するもの。だからなのかその形式も、聴衆までもその中に引き込もうとするパネル・ディスカッションだった。4つのうち1つを除いてはIT関係者が主役となって、“ソーシャル・メディアはもはや一時的な現象ではない、ブランディングや商品・サービスの選択において消費者に多大な影響力を発揮する存在になっている、これまでのダイレクトマーケティング・モデルはもう古い”というような論調だったが、何か釈然としなかった。
さらにDMA理事長のジョン・グレコも、“ソーシャル・メディアがダイレクトマーケティング業界にマインドシフトをもたらす、いずれリストやデータベースに基づくビジネス・モデルはこれに取って代わられる”とまで言っていたが、これはいささか自己矛盾していて軽率な発言ではないかと思った。というのも、展示会場では相変わらず、ダイレクトメールやカタログなどオフライン・メディア関係のマーケティング・サービス業者のブースが一番多く、同時進行セッションでも、オンライン・マーケティングとインタラクティブ・メディアのトラックがその重要な一角を形成していたのは事実であるにしても、大勢は依然として、戦略プランニング、クリエーティブ、リストとデータベースマネジメント、ブランディング、顧客獲得とリレーションシップマーケティングとロイヤルティプログラム、フルフィルメントなどの基本的トラックによって占められていたからだ。

とても気になったのは、話の端々から、彼らがダイレクトマーケティングというものを“販売”という側面からしか認識しておらず、しかもオンライン・コマースを中心にきわめて狭い意味に考えているらしく感じられたこと。ご承知のように自分は、ダイレクトマーケティングというものをもっと広義にとらえて、“その原理とシステムには、今日、伝統的・一般的なマーケティングにも適用されるべき汎用性があり、インタラクティブ・メディアとデジタル・テクノロジーはそのためのさまざまな局面で中心的な役割を果たす”という意味の主張を展開しているが、そういう大局的な観点からの話が、今回はほとんど聞けなかったのはまことに残念だった。
その中でさすがに、ダイレクトマーケティング・エージェンシー3社(ドラフトFCB/ラップコリンズ/オグルビーワン)からの代表者たちは、現実を冷静に見ていると伺い知れた。彼らは、“ソーシャル・メディアについては、コミュニティのメンバーを獲得するのもさることながら、それを顧客にコンバートして定着させて行かなければならないという問題がある、しかしその手法はまだ十分に開発されていないし、効果測定のベンチマークも確定していない”という見方をし、“だから自分たちはまず、その中でのさまざまなタッチポイントを探り出し、そこを足がかりにダイレクトマーケティングのセオリーに基づいてテストを重ね、それらの問題に対する答を出して行くだけ”というのだ。

ソーシャル・メディアの出現によって、企業のマーケターがこれまでのやり方だけで成果に対する制御力を行使するのが簡単ではなくなったのは事実だし、だからこれからはマーケター自身もその中に入り込んでメッセージを発信し、そこで交わされる会話の大勢に影響力を及ぼすような活動を考える必要があるという意見も当たっているだろう。しかし、ブログを書いてはいるものの、Second LifeとかMySpaceとかYouTubeとかMiXiとかには首を突っ込んだこともないので勉強不足かもしれないが、自分にはこれらソーシャル・メディアと総称されるものが、これまでのビジネス、マーケティングの枠組み全体を根本から変えてしまうような存在になるとはどうしても思えない。
これらは、コミュニケーションのあり方とそれによる結果の発生のし方の可能性を拡大し、新しい画期的なバリエーションを一つ増やしたかもしれないが、決してそれまでのすべてに取って代わるわけではなく、それらとクロスしながら共存して行くような気がする。

企業活動の最終目的は言うまでもなく収益の追及だが、サーチであれソーシャル・メディアであれ、それ自体は企業目的ではなく目的を達成するための手段だ。そして企業には、その業種・業態・客層によって、成果を発生させるために本来最も適切なコミュニケーションと流通のチャネルがある(ソーシャル・メディアがたまたまそれに当たる場合があることは否定しないが)。
だからソーシャル・メディアは、もともと理由があって使われ続けてきたチャネルをあくまでも中心に置いた上で、その成果を支援・増幅するためのものと位置づけ連動的に使うのが最も有効なのではないだろうか?問題となっている効果の測定も、それによって本来のチャネルで発生した改善の度合いを測定し、“サポート効果”として評価すればいいのではないかと考える。そしてその効果を生み出すには、何も目新しいことではないが、テクノロジーだけはでなく、戦略プランニングとクリエーティブが同様に重要ということだ。

ところで、かつてこういう場に臨んだときとくらべると今回は、自分の立場が企業人ではなく個人に変化したせいか、何か必ず持ち帰らなければならないという義務感・切迫感がなくなり、また自分の中に蓄積してきたものの厚みが多少増しているように思えたこともあって、余裕を持って客観的に話を聞けたような気がした。
新知識吸収・新情報獲得という面ではどの程度成果が上がったか定かではないが、ともあれ、このブログなども含めて自分がこれまでやってきたことや今やっていることの意味と、これから何をすべきかが再確認できたように思えた3日間ではあった。そして、あえて老骨に鞭打って単身海外に出かけ、短期間とはいえ自分を厳格に拘束して一つのことに集中してみて、気力的・体力的にまだまだやれそうだという自信もついた。

残念ながら、DMA前理事長のボブ・ウィエンツェンをはじめ、こういう機会によく顔を合わせていたニューヨークの古い友人たちは既にみな引退し、再会することはできなかったが、その代わりに奇しくも異国で、日本でこれからのダイレクトマーケティングを背負って立つべき次世代の人々との縁が新しくできたし、機内では分野は異なるがやはり自分の仕事に一途に打ち込んでいる若い人と隣り合わせて旅の会話を楽しむこともできた。

あまり変化のなかった日常の中で、チョッピリ刺激を受け、再モチベートされ、気分転換もできた、自分にとってはそれなりに有意義な1週間だった。

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コメント

 最新ホットNY情報を興味深く拝読しました。
 ソーシアル・メディアの出現とダイレクト・マーケティングの将来は考えさせられる話題です。
 今後、携帯電話とPCの融合が進むと、ソーシアル・メディアは、既存のメディアにとって相当の脅威になるのではないかと、個人的な感想を持ちます。もちろんそれが悪用・誤用されないと言う前提においてでありますが。
 統計学の発達・ソーシアル・メディアの速報性・視覚訴求力などはリサーチ・データの文字通り電光石火の集計・世論の形成などに有効に働くものと推測され、例えば、政治の面〔選挙〕でも、コマーシャル・ベース〔新商品のプロモーション〕でも幅広い活用が広がるものと推測されます。
 今時の若い人は、ネットで物品を購入することを厭いません。例えばジャパネット高田がメディアの研究を深め、ソーシアル・メディアと既存のメディアとのミックスを計るというようなことも考えられるのではないでしょうか。深い思索も無く、ただ直感で申し上げているに過ぎないのですが。
 今回のNY行きが、精神的なリノベーションになられたとすれば、素晴らしい限りです。(完)

投稿: 川崎凡人 | 2007年7月15日 (日) 17時02分

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