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2007年1月22日 (月)

Being Direct (ダイレクトマーケティング一直線)

暮れから正月にかけて、「改訂版・ワンダーマンの売る広告」を読んだ。“ダイレクトマーケティングの父”と呼ばれている米国の偉大なマーケターの一人レスター・ワンダーマンの、自伝でもあり成功事例談でもある本なので、原著が出た2年前から注目しており、アマゾンかDMAのオンライン書店に注文しよう思っていたところだったが、思いがけず昨年の10月に日本語版が発売され、有難いことに訳者のFさんから早々に一冊頂戴した。
実はこの本は、1998年に発売された初版も持っている。そしてそのときに、“自分もこの辺で一度、自分の来た道を振り返ってみたい”という刺激を受けて、2年間24回にわたり業界誌に連載したのが「ダイレクトマーケティング・グラフィティ」だった。

この本は、いわゆるエンタテインメントでもなければ専門書というわけでもないのだが、およそビジネスマンなら思わず引き込まれてしまう、誰にでも思いあたるような、それでいてなかなか得がたい経験の、興味深いトピックスに満ちている。
ワンダーマンは紛れもなくダイレクトマーケターであり、広告マンでもあるが、この本の実質は単なるマーケティング・広告の専門書ではない。むしろ、“ビジネス・ドキュメンタリー”とでも呼んだ方がふさわしく、対象読者はこの業界の人々に限られる必要はない。大企業・中小企業にかかわらず、特に営業や企画担当の人たちは、ぜひ読んだ方がいい。
現に、ITソリューション企業で企画と営業に携わっている長男が、こちらが教える前に向こうから、“いま読んでいるところだけれど、すごく面白いね”と言ってきた。フィリップ・コトラーが“まるで冒険小説を読んでいるようだ”という書評を寄せているのも、あながちオーバーではない。

頼まれたわけでもないのに、この本についてこんなに語っているのには訳がある。書かれていることが、自分にはいちいち、他人事と思えぬほどピンとくるのだ。また、ワンダーマンが現在そして直近の未来(彼の言葉でいえば“ポスト現在”)のマーケターに対して発信しているメッセージが、自分のそれと極めて近く思えるからだ。

もちろん、自分とは親と子ほども年齢とキャリアに差があり企業家としても功成り名遂げた存在のワンダーマンに、この道一筋にやってきたとはいえ彼には及びもつかない実績しかない自分をなぞらえるのは、僭越以外の何ものでもないのだが、ここに紹介されているさまざまな業界内幕や人間模様、それに取り組む彼の心理的葛藤や野心は、おそらく他の誰よりも自分がいちばんよく理解できるのではないかとさえ思えるのである。

無理にこじつけるようだが、1937年、ワンダーマンがカレッジを終えて世に出た年、自分はこの世に生を受けた。そして1961年、彼がニューヨークの通信販売業界首脳陣の集まり「ハンドレッドミリオン・クラブ」の講演で初めて公式に“ダイレクトマーケティング”という言葉を使った年に、自分は社会人として、またダイレクトマーケターとしての第一歩を踏み出した。
この2つの節目におけるタイミングの符合は、後で知ったことであり、もちろん偶然の一致に過ぎないのだが、自分がここまでこうしてダイレクトマーケティングに関わり続けてきたことを考えると、独りよがりながら、何やら縁を感じずにはいられない。

ワンダーマンはこれまでの60年間、終始広告代理店としての立場で、自分は最初の19年はマーケター・広告主、その次の16年は広告代理店、そしてそれから今に至る10年あまりはコンサルタント・研究者の立場でダイレクトマーケティングに関わってきたが、この本を読んでみて、彼が取り組んできた業種やブランドのタイプやマーケティング・モデルと自分のそれには、時代のズレや活動地域と立場の違いはあるものの、奇妙に共通・類似する点が多いことに気がついた。ある時期には、企業と登場人物が重なってさえいる。

彼とは、ライバル企業グループの総帥ということで紹介され、東京のホテルオークラで食事と意見交換をしたことが一度あるだけで、それ以上の縁は特になかったのだが、多分、マーケティングの大変革期の大波が、同じダイレクトマーケティングに携わっていた者たちを、自然にそういう同じ方向へと導いたのだろう。
しかし、そんな過去のことよりも、何にも増して自分が共鳴するのは、彼のビジョンだ。

上述の「ダイレクトマーケティング・グラフィティ」の最終回で自分は、「次世代マーケターへの伝言」(PDFファイル)と題する3つのメッセージの中の1つとして“一般企業のマーケティングの中にダイレクトマーケティングの原理・システムを適用・普遍化すること”をあげ、伝統的なビジネスモデルだけに依存することによる投資効果の行き詰まりの危機を洞察し“市場・顧客中心”と“情報化”に基づく新たな標準ビジネスモデルを確立することの重要性を指摘して、ダイレクトマーケティングこそがその牽引力になり得ると示唆した。

この考え方は、表現は異なっていても、ワンダーマンが「売る広告」の第26章「未来への道は」で言っていることとほぼ一致している。別に申し合わせたわけでも模倣したわけでもなく、先入観を捨てて時代環境に素直に向き合った結果、彼も自分もこういうビジョンに達したのだ。ちなみに自分は、この本の初版が出版される以前の1996年に上梓した「DRM」の中で、上記の原型ともいうべき考え方を発表している。

幸い米国では、彼のビジョンは着々と現実化しつつある。が、日本では、まだまだ道は遠く、やっとその第一歩が踏み出されたばかりだ。大多数の企業における伝統的マスマーケティングへの信奉は、まだまだ根強い。
だが、その状況を客観的に論評するだけで、革新の実現を次世代に委ねているのでは、自分も、間もなく卆寿になんなんとするのになおかくしゃくとこの世界をリードし続けるワンダーマンに対して面目が立たない。自ら提唱したこの課題に、あくなき挑戦を続けねばと、ここで改めて思う。彼の本の原タイトル“Being Direct”の気持ちで...。

その手始めに、「ダイレクトマーケティング・グラフィティ」の内容を大幅に追補して一冊にまとめてみたいと思っている。自分が日本という市場におけるマーケティング活動を通じて、学び身につけてきた汎用的な知恵と経験とノーハウを、ぜひ、できるだけ多くのマーケターに共有して欲しいと願うからだ。
前回の連載ではあらかじめ回数とスペースの制限があったため、参考になるであろうことで盛り込めなかったことがまだ山ほどあるので、ネタに不足はない。

あれ?また自分で仕事を増やしてしまった。でもこれが案外、ボケ防止に役立つかも。

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