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2006年3月14日 (火)

テレビCMはイメージ&レスポンス

テレビは、朝昼晩の食事の時間にダイニングルームで“ながらウォッチング”するのがほとんど。自室では起床時と就寝時に習慣的にスイッチオンするほかは、よほど興味のある映画や特集番組でもなければあまり真面目に見ていない。CMについても同じことで、特にわずらわしいとも思わないがさりとて興味津々というわけでもなく、日常生活の一部として淡々と接しているだけである。

そんなわけで決してテレビのヘビーウォッチャーではない私だが、たまたまいつも同じタイミングで番組やCMを見る結果になっているせいか、以前は職業的な関心以上のものを持たなかったテレビ広告に、この頃では個人的な感慨をも抱くようになってきた。

もちろん、目に入るすべてのCMについていちいち感慨を抱いているわけではなく、特に、同じような市場を対象とするある2社のものが気になっている。一つは九州に本社のある健康食品Y屋の、もう一つは米国に本社のある傷害保険A社のものだ。どちらも、イメージ形成とブランド認知までをとりあえずの目的とするいわゆる“アウェアネス(衆知)広告”ではなく、その結果として販売に結びつく何らかのアクションまでを求める“ダイレクトレスポンス広告”なのは、やはり自分がダイレクトマーケティングに関わっているからだろうか。ただ、「気になっている」と同じように言ってはいるが、Y屋の方は「寡言だが心に響く」という意味で、A保険の方は「饒舌過ぎて心に響かない」という意味でだ。

私自身はいま健康食品の必要を特に感じてはいないので、Y屋のCMに実際にレスポンスしたことはないが、もしその必要が出てきたら、思わず“Y屋、Y屋”とつぶやきながらフリーダイヤルに電話をかけてしまうかも知れない。それほどこのCMには、どこか深いところで心を揺り動かされ、自然にリアクトさせられてしまうものがある。円熟の域に達した男優のゆったりとした語り口、それと調和した画面と音楽には、まるで1編のミニ・ドラマを見ているような気にさせられ、その先のストーリーを知りたくなる。

Y屋の事業形態は通信販売だから、広告したら可及的速やかに受注する必要があるわけだが、テレビというメディアの特性と自社の商品イメージを熟慮してY屋は、CMのその場では無理にそのプロセスを完結しようとしていない。テレビには惹き付ける役割だけを担わせ、詳しい説明と販売訴求の役割はそれに適したダイレクトメール会員誌という印刷メディアに任せている。テレビは決して“理”のメディアではなく“情”のメディアであることを承知し、“情”の部分に訴えることによって視聴者が自ら動くように仕向け、しかも、あえて多くは語らない中にも肝心要のフリーダイヤル番号は明確に印象付けている。実に巧みなレスポンス広告だ。自分も著書や講演などで、“イメージ&レスポンス”というキーワードで広告の極意を述べているが、これはその数少ない好例と言える。

一方A保険のCMだが、全テレビ広告の中でも有数の高頻度でオンエアされており、しかもY屋に優るとも劣らない人気・実力兼備のベテラン男優を起用しているので、少なくとも認知度だけは抜群に高くなっていることは想像に難くない。だがこれが、ターゲット層の率直な共感を十分に呼び起こしているかどうかには疑問がある。実際の成果は知る由もないので違っているかも知れないが、ターゲットの一人でもある私にはそう感じられる。

あれもこれもと一度の機会で伝えないと不安なのか、このCMは多弁過ぎる。詳しい情報を提供しようとすること自体は悪くないのだが、まるで販売員がパンフレットを見せながら滔々と展開するセールストークを聞かされているような気がして、私などは辟易としてしまう――というよりも、飽きてしまうと言った方がいいかも知れない。

このスタイルは、衝動買いを誘う“物品通販”のテレビショッピングでは定番になっているが、“保険”という、合理性の産物でありながら抽象的で、意思決定には多分に感情の影響を受ける商品のテレビを使ったレスポンス獲得手法としては、ちょっと適しないと思う。せっかく渋い演技派男優を出演させているのだから、彼には単純な広告塔の役をさせるのではなく、さまざまな人生ドラマのシーンを演じてもらって視聴者の感性に訴え共感を呼び起こし、より自然に、もっと深く知りたいというモチベーションを発生させるのだ。セールストークはそれをフォローする印刷メディアに任せたら良い。

しかし多分、このことを米国人マーケターに話しても、左脳でしか考えない彼らには理解されないだろう。「自分の本にもそう書いているじゃないか」と訝られ、「それは物販ダイレクトレスポンスの一般論としてだ」と言っても、「保険にだって通用するはず」というオチになるのが、米国資本の企業で長年仕事をしてきた自分には容易に想像できる。

私は、顧客または見込客に親切であろうとするならば、そして投資効果をシビアに考えるならば、いずれ、あらゆるメディア広告はダイレクトレスポンス化せざるを得ないはずと思っているが、それが妙な方向に曲がって行かないよう、現在“ブランド衆知CM”“通販CM”を制作しているそれぞれのサイドの人々に、先入観を捨てて虚心坦懐になれと言っておきたい。話題になったり認知率を上げたりすることができれば広告にはそれ以上何も求めなくとも十分というわけではないし、逆に、心からレスポンスさせるためには形振り構わず速射砲のようにしゃべりまくり迫りまくれば良いわけでもないのだから。

要は「イメージ&レスポンス」だ。30秒で、また見たくなる、続きを見たくなる、そしてもっと深く知りたくなる、味わい深い短編ドラマを見せて欲しい。右脳的感性の持ち主である日本人がつくるどのCMにも、その可能性は秘められている。

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